CREA2026年秋号の「1冊まるごと人生相談」特集が、現在好評発売中! CREA WEBではその一部を抜粋してご紹介します。

 悩んだり、迷ったり、忙しない毎日に少し疲れたら山へ出かけてみませんか。自然の中を歩き、ときに立ち止まることで、きっと新たな景色と出合えるはず。

 頑張り続けることが、いつも正解とは限らない。写真家・根本絵梨子さんは、山で過ごす中で、少しずつ肩の力が抜けていったと言います。山とともに歩んできた彼女に、そこで得た気づきと、日々を軽やかに生きるために大切なことを伺いました。


力を抜いていい。山が教えてくれたこと

 私が20代の頃は、スタジオマンやアシスタントを経て写真家を目指す人が多く、私も同じように4年半の下積み時代がありました。ただアシスタントを辞め、一から再スタートを切ることに。バイトを掛け持ちしながら、作品を撮り溜める日々を送っていました。

 山に通い始めたのは、ちょうどその頃。最初は気分転換のつもりでしたが、自分の時間ができてからはしっかり山を撮ろうと、中判フィルムカメラを購入。海外の山にも行くようになりました。とはいえ、山ではなかなか思い通りの天気にはならず、目的地にたどり着いても、霧で何も見えないことも。でも、その霧が幻想的で、写真に収めてみると思いがけず感動したりもして。人は頭で考えられる範囲でしか想像できません。けれどありのままを受け入れると、想像を超える景色に出合える。そんな、自分の世界を広げてくれる山に、どんどん惹かれていきました。

 その感覚は、日々の生活にも繋がっています。以前は、頑張ることが正しいと思っていたし、頑張れない自分を許せなかった。それが山で過ごす中で、諦めること、休むことがプラスになることもあると思えるようになり、ずいぶん気持ちが楽になりましたね。

 2023年に、ニュージーランドのロングトレイルを歩いた経験も私を大きく変えてくれました。起きて、歩いて、食べて寝て、また歩く。そんなシンプルな生活では、目の前にあるものが情報のすべて。川のせせらぎや風、嵐が来そうな匂いといった情報が体に溶けて、吸収されていくのが心地いい。

 街にいるときは情報過多で、フル回転していた頭の中もすっきり。すると、その日の体調や足、指先の感覚まで意識できるようになったのです。普段は周りにばかり意識が向いていたけれど、自分と向き合う時間を持てたことで、自分のことを好きになれました。

 スポーツでは、力が抜けているほうが次の一歩をパッと踏み出せたりしますよね。力を抜くことの大切さに、山を歩く中で改めて気づかされました。山があって良かった。今、私が笑って暮らせているのは、山のおかげです。

写真家
根本絵梨子(ねもと・えりこ)さん

1988年群馬県生まれ。スタジオ勤務やアシスタントを経て、2016年に独立。ファッションやアウトドアなど幅広い分野で活躍する。一年のうち数力月は、国内外の山を歩くなど自然に身を置き、心を動かされた情景を中判フィルムで撮影。作品展も精力的に開催している。

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