未来の私へ。次に失恋したときのための対処法リストです
コスメデコルテのコントロールカラー、AMUSEのファンデーション、KATEのアイブロウ、fweeのリップグロス。最低限のメイクを済ませて、ベッドに寝転がる。LINEで、約束をキャンセルしたいこと、しばらく距離を置きたいことを送った。
会社には、先週からの風邪が長引いているので在宅したい旨をSlackで伝える。淡々と最低限、今日中にやらないといけない業務をこなしていたら、相手から「距離を置きたい」ことの承諾と、今までへの感謝の言葉が送られてきた。
夕方、美容院に赴いた。体の奥底から自分自身を損ねたいような気持ちがわいてきたのをなだめるためだ。代償行為。うなじをバリカンで刈ってもらったら、悲しみのしっぽもいっしょに刈られたような気がした。トリートメントがさくらもちの匂いで驚く。スイスだかオーストラリアだかのブランドで、髪をいたわる薬効に特化している品だという。質の良いブランケットのように、心までくるんでくれる香り。その場で買おうかと思ったけど、ブランド名が全く覚えられなかった。ジュビジョバジュバ~みたいに聞こえた。難しすぎるのか、私の脳がまだ新しい言葉を覚えるほど回復していないのか。髪を乾かされている間、iPhoneでPARIGOT ONLINEを開く。予約受注販売に間に合わず歯軋りしていた、Chika Kisadaの別注ニットが入荷していた。気付けてラッキー。慌てて購入した。6万円。本当は気安く買えないお値段だ。失恋中でよかった。
帰り道は、どことなく胸をはって歩けた。道端の案内板に描いてあったグラフィティに目が止まる。ノンタンみたいなネコがあっかんべーしていた。
いいな、あっかんべー。なんだか、昨晩から今日で感じたすべてのことがどうでもよくなってきた。写真を撮る。そういえば、LINEアイコン、相手に撮ってもらった写真だった。東横線に乗り込み、あっかんべーに変えた。ついでにInstagramも変える。「誰かと思ったw」と友達からメッセージが送られてくる。
未来の私へ。次に失恋したときのための対処法リストです。
●まずは常温の水を飲む
●湯船に浸かる
●理由を探るのではなく、いまの感情と向き合う
●相手のSNSアカウントは見ない
●現実でもしばらく会わない
●美容院に行って髪を切る
●予算度外視で服を買ってよい
●猫のおなかをたくさんなでる
もう、恋なんてしないけど!
ひらりさ
1989年東京生まれ。オタク女子ユニット「劇団雌猫」のメンバーとして活動を開始後、オタク文化、BL、美意識、消費などに関するエッセイやインタビュー、レビューを執筆する。単著に『沼で溺れてみたけれど』(講談社)。劇団雌猫としての編著書に、『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。
X:@sarirahira

まだまだ大人になれません
定価 1,760円(税込)
大和書房
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文=ひらりさ プロフィール撮影=Kimura Hinami
