悲しい。そうか、悲しいよね。でも何が悲しいのだろう
こうやって、因果をつけてしまうのはなぜだろう? 振り返りを一刻も早く終えて、脳内の「完了」ボックスに入れたいから? いや、逆もあるか。自分は、「あの可能性」や「その可能性」を点検し、それらを挽回してワンモアチャンスを手に入れようとしている、気がする。今からでも入れる保険、ありますか? つまりまだ期待している。これまでの失恋でも、振られた直後、相手のSNSから「振られた本当の理由」を探すモードに入ってしまうことが多かった。昨年別れた元恋人にいたっては、振られたあとにXアカウントを特定してウォッチするという愚をおかしたほどだ。もしこの世に愚かさを競う競技があったら、都大会の準決勝くらいまでは行ける自信がある。なくてよかった。
湯船を出て、髪と体を洗う。SEA BREEZEのボディーソープの、よそよそしいメンソールの香りが全身を包む。元恋人が家に来るとき用に買っていたものだ。自分で愛用していたAesopは、半年以上切らしている。失恋している暇があったら、ボディーソープを買いに行きましょう、自分。今回の失恋相手とは、すでにInstagramを交換して相互フォローの関係にある。持ち込んだタオルで右手の水気をとってiPhoneを持ち上げ、Instagramを立ち上げる。相手のホーム画面にとんで「この人にストーリーズを表示しない」と「制限する」を選択した。これで、相手の足あとにそわそわすることも、そのほかのアクティビティを追ってそわそわすることもなくなる。
風呂を出る。パナソニックのナノケアを手に取り、ぶうんと髪に当てる。実は昨晩、次に会う約束をとりつけてしまっていた。向こうから「これからも友達でいたい」と言われたからだ。私もできるだけそうしたいと思った。昨晩は。いや、でもダメだな。会うたびに、きっと相手は優しくて、態度が変わらなくて、私は期待してしまうだろう。それではあまりにも悲しい。
悲しい。そうか、悲しいよね。でも何が悲しいのだろう。交際できないこと?
髪を乾かし終える。Davidsのホワイトニング歯磨き粉で口内をすっきりさせ、IPSAのザ・タイムR アクアを顔に塗りたくる。昨年のホリデーシーズン、限定ノベルティだったMAISON SPECIALとのコラボポーチが欲しくて買ったものだが、美容雑誌でよく取り上げられる名品だけあって、肌にも合っていた。ジェンダーレスな品でいいなと思い、相手の誕生日プレゼントにも同じセットを渡していた。実はIPSAがすごく肌に合うんですよ、教えてないのにびっくり、と喜んでくれた。
ああ、そうか。
何が悲しいって、ここまでふくらんだ恋心の行き場がなくて悲しいんだ。受け取り主不在で返ってきた郵便物の前で、途方に暮れているのだ。たいした計画もなしにふくらませてしまった、自分の責任なんですけどね。
文=ひらりさ プロフィール撮影=Kimura Hinami
