婚姻関係を結んでいないパートナーに先立たれるとどんな問題に直面するのか? そんな日本で暮らす私たちにとっても他人事ではないテーマに向き合った香港映画『これからの私たち - All Shall Be Well』が公開中だ。
主人公を演じるパトラ・アウ(區嘉雯)さんは、近年、高く評価されている香港映画への出演が続いているベテラン俳優。英語教師のかたわら舞台俳優として評価を高め、60代で映画界に進出した経歴の持ち主でもある。そんな彼女が、愛する人への遺言やセカンドキャリアについて語った。
明日が必ず来るとは限らない。遺言状は愛する人へのラブレター
――『これからの私たち - All Shall Be Well』(以下、『これからの私たち』)は、40年以上パートナーとして生きてきた60代のレズビアンのカップル、アンジー(パトラさん)とパット(マギー・リーさん)の物語です。
お互いの親族や友人との仲も良好で、経済的にも恵まれた暮らしを送っていましたが、パットの急死により、法律上で家族と認められていないアンジーは、さまざまなものを失っていきます。このアンジーという役柄を、どのように理解して演じましたか?
パトラ・アウ(以下、パトラ) アンジーは、レズビアンのカップルの“妻”で、いわゆる専業主婦として生きてきた女性です。LGBTQに対する厳しい現実をよく知らない状態で暮らしていました。ところが、パットの死をきっかけに、皆が彼女に背を向けたことで、自分の権利が奪われてしまったことに気づくのです。
パットと築いた家族が、あっという間に消えてしまったのだと。彼女は抗おうとしますが、(同性婚を認めていない香港の)法律は味方をしてくれません。それでも彼女は戦います。親友ではなく、愛情で結ばれたカップルだということを世の中に知らしめるために。
――アンジーとパットの関係を承知していながら、彼女のことを第三者にパートナーではなく「親友」と紹介し、パットの遺産を相続する兄とその家族に怒りを覚える観客が多いようです。
でも、兄もその家族も決して悪者ではなく、そうせざるを得ない経済状況にある。それがこの映画のリアルで生々しいところだと思いました。パトラさんは演じていてどう感じましたか?
パトラ パットも、パットの親族たちもアンジーを愛しているはずです。でも、自分たちとの間に利害関係が生じた時、選択を迫られて、その選択が大切な人の気持ちを傷つけてしまう。
もしもパットが遺言書を作成していたら、きっとアンジーに財産を残しただけではなく、お兄さんやその子供たちにもお金を残したと思います。仮にパットがそうしなくても、アンジーは自分の死後、全てを彼らに譲ったのではないでしょうか。
どうか皆さん、お時間のある時に、遺言書を作成してください。そうすれば、自分の財産や大切な人を守ることができます。
東洋人は死について話すことを恐れます。遺言書を作成すると、明日にでも死んでしまうように思っていますから。でも、そんなことは決して起こりません。むしろ、愛する人への最後の手紙だと考えてください。
明日が必ず来るとは限りません。お金の話だけではなく、臓器提供の希望かもしれませんし、たとえば「このカーディガンを大切な友人に贈りたい」という願いかもしれません。私は既に作成しています。遺言書は愛する人へのラブレターのようなものなのです。










