自分を0点だって認めることができたのが大きかった

――そんな経験を経て、今、30代、40代の読者にアドバイスできることはありますか?

 ハードルを高く設定しない方がいいですよ、ということですね。

――でも高く設定することによって、さらに上に行けることもあったのではないですか?

 私の場合は、高く設定することによって、自分は届かない、自分はダメだって、自分を否定していたんですよね。もっと低いハードルにして、ポンポンポンポンとずっと上り調子にする、というような人生の考え方だったら自分はどうなっていたのかなと想像するんですよ。

 若い頃、100%そうだったら、もしかしたら天狗になって終わってたかもしれないけれど、でも、この考え方がちょっとでもできていたら、もっと仕事を楽しめたかもしれないな、と思うんです。毎日ダメだダメだって他人からも自分からも言われてたら、そりゃあ楽しくないですよ、人生。

――確かにそうですね。

 あと、カナダで暮らし始めて、私は自分のことを0点だって1回思ってますから。

 英語がまったく喋れないのに、英語しか通じないところに自分を放り込んだから、何もできないし、自分を素直に0点だって認めることができたのが大きかったですね。

 だけど、日本にいた頃、自分はダメだダメだと言っている時は、自分が0点だなんて1回も思ったことなかったんですね、逆に。「私はこの人には負けてないし」って思っていた、そのことが実は一番辛かったかもしれません。

 でも今は、自分のこと本当に0点だと思ってるから、もう点数が上がっていくしかないわけです。何をやっても点数上がっていくんですよ。そうすると、偉いなあ、すごいなあ、ホントよく頑張って生きてるなって、ちょっとしたことができるだけで自分を褒めることができる。

 あとね、「類は友を呼ぶ」というのは本当だと思う。私、最近、自分のことをすっごい褒めてるんです。そうすると、卵が先か鶏が先かわからないけれど、ポジティブな人が周りに増えていくんですよ。そういう人って、息をするように人を褒めるんですね。

――『ようやくカナダに行きまして』にもありましたが、カナダの人たちは褒め上手だとおっしゃっていましたね。

 道歩いているだけで褒められますよ。「素敵なスカートね」とか気軽に声かけられるんです。

 以前の自分だったら「嘘つけ!」と思ったかもしれないけれど、みんな、ポジティブな感情や喜びを素直に表現するんです。いいなと思ったことを口に出して言われて、嫌な気持ちなんてしないですからね。

光浦靖子(みつうら・やすこ)

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。国民的バラエティー番組『めちゃ2イケてるッ!』のレギュラーなどで活躍。手芸作家・文筆家としても活動し、著書にエッセイ『傷なめクロニクル』『50歳になりまして』『ようやくカナダに行きまして』、手芸作品集『靖子の夢』『私が作って私がときめく自家発電ブローチ集』など多数。2021年からカナダに在住。

ようやくカレッジに行きまして

2022年8月、公立のカレッジのプロのシェフを養成するコースに入学したヤスコ。2年のコースを修了して卒業証書を得ると、PGWP(Post-Graduation Work Permit)というカナダで3年間働く権利を得られます。英語を上達させたい、将来カフェを開くための勉強をしたい、そしてカナダで働いてみたい。様々な年齢や人種のクラスメイトと一緒に授業や実習で学び、課題に追われる日々。そこでは想像を超えた肉体的疲労、人間トラブルが巻き起こり……。50歳から新しい挑戦をし続けるヤスコの、元気と勇気をもらえる最新エッセイ!

 

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次の記事に続く 「この現場では偽善者を演じていいのよ」、光浦靖子が語る...