やなせ・たかしはおかしな人物だ
この本には、BONが書いたという体裁をとったあとがきが付されていて、こう書き出されている。
ボクの主人やなせ・たかしはおかしな人物だ。マンガ家としてはたいしていそがしくもないのに、夜の2時、3時まで机にむかって、ボソボソつぶやきながら何かしらかいている。気が変なのかもしれない。たとえば次のようなことをしゃべる。
「芸術的なマンガというのはありうるのかしら、それはマンガの堕落ではないだろうか。十人に愛されるよりは百人に愛されたい。しかしその愛の質によってはむしろただ一人に愛された方がいいのかもしれない。よくわからないねェ、よくわからないが、とにかく面白くないマンガというのは面白くねえなあ。ああ、クサクサする、死にたくなった。おい、ボン、おめえはいいよ、オレも犬に生まれりゃよかった、コンチキショー」というぐあいで、全く支離滅裂だ。
面白いものを書きたい。でも面白いだけでいいのか。大衆に愛されたい。でもその大衆とは誰なのか―嵩の迷いが、ここにはそのままあらわれている。

やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく
定価 770円(税込)
文藝春秋
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- staff
- 文=梯 久美子
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