世界の美食界が注目するアワード「世界ベストレストラン50」。2013年から、そのラテン部門がスタートした。2015年の会場となったのはメキシコシティ。メキシコ合衆国の首都であり最大の都市だが、その歴史は古く、13世紀末のアステカ王国にまで遡る。

 今回の旅で味わったメキシコ料理は、その時代からの伝統を踏まえて、新しいトレンドを取り入れたもの。メキシカンと聞いてまず誰もがイメージする、タコスやブリトーとはひと味もふた味も違うものだった。

モレソースの味わい深さにすっかり感服!

「プジョル」の美しく、味わい深い至高の一皿。その日の鮮魚のグリルを、チリを使ったスパイシーなモレソースとハーブでいただく。

 「世界ベストレストラン50」は、英国「レストラン・マガジン」が、フードジャーナリストやシェフなど、世界中の食の専門家が審査員となって選び出しているもの。ミシュランのように星の数による選別ではなく、「世界ベストレストラン50アカデミー」の会員による投票で1位から50位までの順位が決まる。この50位内に選ばれるのは、シェフにとってたいへんに名誉であり、メディアでも大きく取り上げられている。

 昨今はアジア、ラテンアメリカといったエリアでのベストレストラン50がスタートして、毎年、美食界の新たなトレンドとしても注目されている。

 「ラテンアメリカ・ベストレストラン50」は、2014年にペルーのリマで開催されて大きな話題になった。2015年の開催地は、メキシコシティ。メキシコの首都であり、全土50のエリアの個性豊かな食が集まっている中心地だ。先に発表された「世界ベストレストラン」にも3つのレストランが選出されているほどそのレベルは高い。

 2015年9月23日の「ラテンアメリカ・ベストレストラン50」の発表に先立って、まずは、6月に発表された「世界ベストレストラン50」で16位に入った「プジョル」を訪ねた。ここは、アエロメヒコ航空のパリやマドリッドとメキシコシティを結ぶ便のビジネスクラスの機内食の監修を務めるエンリケ・オルベラがオーナーシェフを務める店だ。

 トレンディなエリアのミゲル・イダルゴにある「プジョル」。モダンで落ち着いた雰囲気の中にお料理が浮かび上がるような照明は、テーブルをキャンバスに見立てているかのよう。

 前菜からデザートまで6品のコースは、モレソースやタコスなど伝統的なメキシコ料理の手法を踏まえ、素材の風味や持ち味を生かしながら、驚かされるほどクリエイティブに昇華された料理だった。

ソースと野菜だけでここまで豊かな味わいと食感が出せるとは。そんな風に驚かされたモレ・ベルデ。

 例えば、2品目に出たモレ・ベルデ(緑のモレソース)は、ベースはヒマワリの種とブロッコリー。その上にエシャロット、ラディッシュなど味と歯触りを楽しむ野菜がのって、セサミシード・オイル(ゴマ油)がアクセントを、そしてわずかなハバネロ(唐辛子)がスパイシーな華を添える。ベジタリアンな一皿なのに、驚くほど様々なテイストが口の中で楽しめる。

モレ・ベルデは、モレソースに野菜やクリームなどを重ねて作り上げていく。

 モレとしてはもう一種類、モレ・ネグロ(黒いモレ)が5品目に出た。チョコレートがベースのまったりとした黒いモレに、チリ・レッドの赤いモレがのって、甘さと辛さが深く絡んだソースは、それだけでメキシコの酒メスカルにぴったりだ。

2種のモレソースがハーモニーを奏でるモレ・ネグロ。ソースだけで味わえる。

 唐辛子、タマネギに様々なスパイスや野菜などを煮込んで作られるモレの味を一言で形容するのは難しい。なんとなく風味や見た目は、味噌を思わせる。

 メキシコ料理の原点であり、作る人によって千差万別。そしてここ「プジョル」のモレは、もはやソースというよりそれ自体が料理の一品として立っていた。

Pujol(プジョル)
所在地 Francisco Petrarca 254, Miguel Hidalgo, Polanco, 11570 Ciudad de México, D.F.
電話番号 +52-55-5545-3507
URL http://www.pujol.com.mx/

2015.12.28(月)
文・撮影=小野アムスデン道子