【『東山御物の美―足利将軍家の至宝―』展】

国宝「紅白芙蓉図」 李迪筆 南宋時代 東京国立博物館 展示期間:10/4~10/13
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 さて鎌倉時代以降の革新を経て、題目や名号を唱えるのが主体で、金や手間のかかる仏像や仏画を重要視せず、また人間の内面へ関心を向けた禅宗が興隆したこともあって、仏像仏画をさほど必要としなくなった仏教の美術が勢いを失ったこの時期、宋から元にかけて描かれた水墨画、宮廷の用を務めた画院画家の花鳥画、透き通るような青磁、また花瓶、香炉、燭台などの煌びやかな具足類など、中国から舶載された文物=「唐物」が、武家たちの人気を独占した。

 中でも歴代の足利将軍が蒐集した中国の書画工芸のコレクション「東山御物」はその頂点として君臨し、内容と形式の双方で、日本美術に巨大な影響を与えた、美術史上の結節点として知られている。とはいえ、「東山御物」となれば箔付けにも、価格査定にも大きなプラスになることから、確実に将軍家に所蔵されていたと言えないものまで、「東山御物」ブランドとして流通してきた面もある。

 三井記念美術館で開催される「東山御物の美」展は、そうしたものの中から、確実に将軍の目の前を通ったと考えられる作品を選りすぐり、この時代にどのような表現が高い評価を受けたのかを明らかにしようという展覧会だ。

国宝「秋景山水図・冬景山水図」(伝)徽宗筆 南宋時代 京都・金地院 展示期間:11/4~11/24

歴代の足利将軍が蒐集した「東山御物」の内容と形式

国宝「夏景山水図」(伝)胡直夫筆 南宋時代 山梨・久遠寺 展示期間:10/14~11/24

「東山」という名から(「東山殿御物」という名称の初出は桃山時代以降)、8代将軍義政によって蒐集されたコレクションが中心のように感じられるが、日明貿易を独占して莫大な利益を上げた3代将軍義満を頂点に、4代、5代と蓄積されたものがその中核となっている。そのコレクションを、将軍たちは自らの権勢を誇示するための道具として用いた。

 それまでの日本では、壁にかけて鑑賞するものといえば、儀式の本尊に用いる仏画くらいしかなく、絵巻にせよ和歌巻にせよ、書画は巻子や冊子の形になったものを手もとで繰って、一人、あるいはごく少人数で観て楽しんでいた。しかし中国からもたらされた書画は軸装を施され、多くの人間が一度に鑑賞することができる、「ハードウェア」として画期的な体裁を取っていたのだ。

 これをもっとも効果的に利用したのが、足利将軍家だった。それまで趣味を同じくする人々は、和歌や連歌、闘茶などを楽しむための応接室/パーティルームとして、邸内の一室を臨時に仕立てた「会所」という部屋に集まっていた。将軍家はこの「会所」を、特別な展示/饗応施設として独立させ、広い壁面に何十という軸を掛け並べ、屏風を広げ、その前に青磁や漆器を置くというゴージャス極まりない演出で、天皇をはじめとする客をもてなし、威圧したのだ。

国宝「雪中帰牧図」 李迪筆 南宋時代 大和文華館 展示期間:10/4~10/26

2014.09.27(土)
文=橋本麻里