現代美術の見方が分かる展覧会

「アクション・ペインティング」の代表的画家で、抽象表現主義の創始者のひとり。本質に先立つ「実存」がテーマの章で展示。
ウィレム・デ・クーニング 《無題V》1975年 ヤゲオ財団蔵
(C) The Willem de Kooning Foundation, N.Y. / ARS, N.Y. / JASPAR, Tokyo, 2014 E1016

「古い美術作品は好きだけど、現代美術はちょっと苦手」、あるいは「これから現代美術を観ていきたいと思っているけどまず何を?」。こういう方にこそお勧めしたいのが、東京国立近代美術館で開催中の『現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展』だ。ド派手な黄色の地に、ヨガのポーズを取る黄金のケイト・モス像をメインビジュアルに使ったポスターを、地下鉄駅構内などで目にした人も少なくないだろう。

「美」術作品なのに「美しい」と素直には言い難く、どこがいいのか説明することも難しい(まさに「絵に描いたような現代美術」感!)。なのにオークションで何百億円とか意味がわからん――そんな疑問に答えてくれるのが、この展覧会なのだ。

写真を絵画として描きうつした作品。その背後にはドイツ史上の悲劇が孕まれている。
ゲルハルト・リヒター 《叔母マリアンネ》 1965年 ヤゲオ財団蔵
(C) Gerhard Richter, 2014

 出展作品はすべて、「ヤゲオ財団コレクション」の所蔵品。台湾の大手電子部品メーカーとそのCEO、ピエール・チェン氏らの寄付を元に設立され、西洋の近現代美術・中国の近現代美術を収集の大きな柱とする世界屈指のコレクションとして、近年とみに注目を集めている。その中から絵画と彫刻作品74点を選び、「ミューズ」や「記憶」、「崇高」「リアリティ」「新しい美」など10件のテーマ毎に展示している。

 テーマそのものの選び方は、現代美術のこれまでの流れや、その時々の問題意識を反映した、ある意味手堅く、オーソドックスなもの。だがそこに付されたテーマ解説と、それぞれの作品についての解説キャプションは上下二段に分けられており、上段ではそのテーマに関する美術史的な文脈がわかりやすく説明されている。一方下段では美術を取り巻く社会的な状況、すなわちオークションで驚くような高値がつくようになった理由や各国の文化政策、また多様な背景を持つコレクターたちの影響力などが理解できるという仕組み。

 そして何よりテーマに従って展示された作品は、「崇高」の章ならマーク・ロスコ、杉本博司、ゲルハルト・リヒターら、個人のスケールを超えた時間や歴史を現前させる作品に戦慄を覚え、「リアリティ」の章ならアンドレアス・グルスキー、トーマス・シュトルートらの、もはや絵画と分けて考えることのできない大判写真の荘厳さに撲(う)たれ――と、現代美術史のど真ん中を行く作家、またその領域を代表する作品ばかりが集められている。今展のキュレーターである保坂健二朗氏の軽妙なテキストも相まって、最後まで飽きずに現代美術の重要な文脈を押さえることができる、見事な展覧会だ。

『現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより』
会場 東京国立近代美術館 1階企画展ギャラリー+前庭
会期 開催中~8/24
料金 一般1,200円(税込)ほか 
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL http://sekainotakara.com/
≪巡回予定≫名古屋市美術館、広島市現代美術館、京都国立近代美術館

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2014.08.09(土)
文=橋本麻里