好きになれそうなものを探すための最高の「カタログ」

今夏、150年ぶりの大船鉾の復活が話題になった祇園祭の古様を伝える《祇園祭礼図屛風》。
「祇園祭礼図屛風」(部分) 江戸時代 17世紀 京都国立博物館蔵 展示期間:9/13~10/13

 CREA7月号のアート特集で予告した、京都国立博物館「京へのいざない」展がついに開幕を迎える。あらためての紹介になるが、この展覧会は、テーマに従って自館の所蔵品+他館の所蔵品を借りてきて構成する、いわゆる「特別展」ではない。美術館の根幹をなす所蔵品、そして京都国立博物館の個性でもある、京都一円の寺社から預かる寄託品とを合わせ、作品を入れ替えながら展示する、「常設展示」のスペシャル拡大版。だから国宝50余件、重要文化財110余件、総出品数約400件(1期・2期合計)という重量級の展示でも、通常の入館料520円だけで見ることができる。しかも建て替えのための5年にわたる休館期間を経て、満を持しての「お蔵出し」なのだ。

現存唯一の実景を描いた室町水墨。
国宝「天橋立図」雪舟筆 室町時代 16世紀 京都国立博物館蔵 展示期間:9/13~10/13

 日本では美術鑑賞というと、とかく特別展に関心が偏りがちだ。だが海外旅行の際、多くの日本人がルーヴル美術館やニューヨーク近代美術館などへ足を運ぶのは、特別展ではなく(タイミングが良ければ観るけれども) 、基本的にはダ・ヴィンチやラファエロ、ピカソ、セザンヌなど、錚々たる作品を備えたコレクション目当てだろう。同じことは日本にも言える。日本美術なら東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館という国立三館(近年九州国立博物館も加わった)の、圧倒的な質・量の常設展示は、伊藤若冲や阿修羅像など、近年の江戸絵画や仏像のブームで日本美術に関心を持った人が、「その先」 へ進むのに最高の手がかりになるはずだ。さらに興味が深まれば、それぞれ個性ある美術館を自ら選び、訪れることができるようになる。

キリストの復活を思わせる釈迦復活を主題とした平安仏画の傑作。
国宝「釈迦金棺出現図」 平安時代 11世紀 京都国立博物館蔵 展示期間:9/13~10/13

 そうやって自分が好きになれそうなものを探すための最高の「カタログ」が、今展なのだ。もちろん、ただ名品を並べるのではない。「京都の宝蔵」を自認する博物館にふさわしく、平安遷都以降の千年間、文化の中心であり続けた京都の文化、京都の美術をコンセプトに展示を構成。前期は「肖像画」をテーマに、誰もが知る《伝源頼朝像》や《花園法皇像》などのほか、新仏教の祖師を顕賞する《一遍聖絵》、平安仏画の傑作《釈迦金棺出現図》や、日本美術史上最高ブランドの雪舟《天橋立図》、日本水墨画の嚆矢となった如拙《瓢鮎図》など、平安時代から室町時代にかけての名作が多数出展される。後期は近世に焦点を当て、「桃山秀吉とその周辺」をテーマに。華麗な《吉野花見図屛風》や、桃山画壇の覇者、狩野永徳《花鳥図襖》、永徳のライバル、長谷川等伯の《枯木猿猴図》まで、前後期合わせて約400点の作品で、京都国立博物館の、いや京都の底力を感じさせてくれるはずだ。

平成知新館オープン記念展『京(みやこ)へのいざない』
会場 京都国立博物館 平成知新館(新館) 
会期 2014年9月13日(土)~11月16日(日)
料金 一般520円(税込)ほか 
電話番号 075-525-2473(テレホンサービス)
URL http://www.kyohaku.go.jp/

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2014.09.13(土)
文=橋本麻里