それはクマの習性とも関連する。クマは周囲を警戒したり、威嚇するときは後肢で立ち上がることが多い。しかるのち、必要とあらば攻撃へと転じるのである。

「そのため、クマによる第一撃は、立ち上がった状態から前肢で水平に薙(な)ぎ払うことが圧倒的に多いんです。クマの立位での身長はだいたい100~150センチですので、ちょうど人間の顔の高さを振り抜くことになります。また、クマ同士で争う場合は、相手の口を噛みこんで窒息させようと顔を狙うので、人間においても顔面外傷を負うことが多いんです」

「これだけの傷を負った人が死ななかったのか」

 襲われた人は顔の右側に傷を負うことが多いことから、ハンターの間では“クマは左利き”という説もあるというが、中永は「恐らく右利きの人が多いので、咄嗟(とっさ)に右手をかざして、右半身の状態でクマの攻撃を防ごうとして、右側に傷が集中するのだと思います」と語る。

 いずれにしろ、その威力はすさまじいばかりだ。

「以前、クマに襲われた患者さんの治療のため、傷口を洗浄して縫合しようとしたら、皮膚の中からクマの爪が出てきたこともありました。自分の爪が折れるほどの勢いで前肢を振り下ろしているのか、と驚きました」

 当然、それだけの力で顔面を薙ぎ払われたら、そのダメージは深刻なものになる。

 中永らのデータによるとクマ外傷患者の45%が顔面を骨折し、15%が眼球破裂に至っている。

『クマ外傷』では、患者の了解をとったうえで受傷直後の写真と治療後の写真が並べて掲載されているのだが、とくに前者の写真は「これだけの傷を負った人が死ななかったのか」と驚くほどの惨状を呈している。

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