2025年、日本におけるクマによる人身事故の被害者は238人、そのうち13人が死亡。いずれも統計開始以来、最悪の数字だといいます。ここでは、迫りくる獣害の実態とそれに立ち向かうハンターたちの死闘を描いた『羆(ヒグマ)を撃つ』(伊藤秀倫 著、文藝春秋)を一部抜粋して紹介します。
ヒグマに頭を噛まれた男性(当時59)はいかにして奇跡の生還を果たしたのか。その一部始終を語りました。(全2回の後篇/最初から読む)
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消防に現場の位置を伝えている間に、警察のヘリが飛んできたのだが、なかなかこちらを見つけられない。しばらく付近を探していたものの、やがて燃料が切れたのか、帰っていってしまった。
いつの間にか、犬のブンタがそばに戻ってきていた。
「私を心配して、傷口をペロペロ舐めようとするんですね。その気持ちは有難いんですが、雑菌でも入ったらいけないから、これにはちょっと閉口しました」
救急車が山道へ入れない
その後、消防と電話していると、一度は出動した救急車が現場に通じる細い山道に入ることができずに、戻ってしまったという無線でのやりとりも電話口から洩れ聞こえてきた。
「そもそも何の目印もない山の中なので、現場の場所を正確に伝えるのが大変でした」
ついには真野が現場に土地勘のあるキノコ採り仲間の一人に電話して、救急隊員への道案内を頼んだ。最終的にこれが功を奏して、無事に救急隊に発見された真野は、即席の担架がわりの毛布でライトバン(救急車が山道に入って来れなかったため)へと運ばれた。
「そのときになってようやく痛みを感じるようになって。運ばれているときに、どうしても木とか枝に当たるでしょ。そのたびに思わず『イタタ!』と声をあげてると、しまいにはキノコ仲間に『うるさい、黙っとれ』と怒られてしまいました」
ドクターヘリで札幌市内の病院へ運ばれたときには、最初の通報から実に2時間が経過していた。
ヒグマの牙は骨にまで達していた
翌日付の北海道新聞は、この一連の経緯をこう報じている。
〈午後0時10分ごろ、千歳市藤の沢の山林で、キノコ採りをしていた千歳市内の男性会社員(59)がクマに襲われて頭や腕をかまれ、右足首を骨折する重傷を負った。男性はドクターヘリで札幌市内の病院に運ばれたが、命に別状はないという〉
だが記事から受ける印象以上に病院での診断の結果は、壮絶なものだった。
