右距骨(みぎきょこつ)下関節内側脱臼、左足関節後方脱臼骨折、右頭部・上肢多発熊咬傷、第五中手骨開放骨折、右尺骨(みぎしゃっこつ)・上腕骨・舟状骨(しゅうじょうこつ)剥離骨折、左第四・五肋骨骨折、右長母指伸筋腱癒着・断裂。

 医師によると、クマの牙は右腕の骨にまで達していた。クマの顔面を蹴った真野の右足ばかりか、軸足となった左足関節まで一瞬で骨折させた事実、クマの凄まじいまでの瞬発力と破壊力を物語っている。

生死を分けたものは?

 結局、リハビリを含めて3カ月の入院生活を余儀なくされた。

 「でも、私は幸運だったんです」と真野は振り返る。

 ひとつにはその半年前に携帯電話のキャリアをauからdocomoに替えていたことである。

 その山林ではauは通じなかったが、docomoは通じた。もし携帯を替えていなければ、「確実にアウトだった」。またいつもは怠りがちだが、その日はたまたま充電を満タンにしていたことも奏功した。さらに言えば満身創痍ながらも、意識ははっきりとし、喋るのには支障がないケガだったことも幸いしたという。

 入院中、北海道立総合研究機構(道総研)のヒグマの専門家による聞き取り調査を受けた。

 専門家の見立てでは、当該クマはその体格と子連れでなかった点から、「若いメスではないか」とのことだった。

 ちなみに真野が襲われた翌年、その現場近くを流れる川で釣りをしていた人がメスのヒグマに追いかけられ、荷物を漁られる事案があった。このヒグマはハンターにより駆除されたが、メスのヒグマの行動半径からして真野を襲ったのと同じ個体であってもおかしくはない。

「事件後もキノコ採りには行ってます。でもさすがに一人で山に入るのは今でも怖いですね。トラウマにはならないかな、と思っていたんですが、いざ山に入るとやっぱりあのときの恐怖がよみがえります」

 一方でこの経験以降、個人的にヒグマの生態や人間社会との関わりについて調べるようになったという(私が取材した際にも、ヒグマに関する記事が丁寧にスクラップされた分厚いファイルを持参していた)。

 その真野は今、改めて事件を振り返って何を思うのだろうか。

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