「例えば、車が正面衝突したとか、工場で大きな機械に巻き込まれた、あるいは高所から転落したとかそういう時に負うのと似た感じの傷なんですね。それだけ強い外力が複雑に作用して受傷されているというのが、やはり衝撃的でした」
以来、これまでに中永が診たクマ外傷の症例数は100に近い。とくに秋田大学医学部に着任した2008年以降、症例は加速度的に増えていき、2023年には1年で21例を診た。
そのうち20例の症例をもとに中永をはじめとする秋田大学医学部の7人の医師は、クマ外傷に特化した医学的実用書『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(新興医学出版社刊)を2025年に上梓した。
「もともとは別の救急医療の本のコラムとして、クマに襲われた患者さんは外傷だけでなく、心にも傷を負ってPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するなど、治療に時間がかかるケースが多いということを書いたんです。それが医療系出版社の編集者の目にとまって、クマ外傷に特化した本を出すことになったんです」
同書は医療関係者のみならず一般読者の強い関心を惹き、救急医療の専門書としては異例の売れ行きを記録。中永も「ここまで話題になった本は初めてです」と驚きを隠さない。
クマ外傷の大きな特徴
中永によると、クマによる外傷にはひとつ大きな特徴があるという。
「それはクマは顔面を攻撃するということです。うちで診たクマ外傷の患者さんの実に90%が顔面に受傷していました。次に多いのが上肢(70%)で、以下、頭部(60%)、下肢(40%)、胸部(25%)、頸部(15%)となっています」
なぜ顔面に受傷が集中するのか。
