北欧渡航歴30年以上で、元デンマーク親善大使の肩書を持つ料理家・インテリアデザイナーの行正り香さん。長く北欧文化に親しんできた彼女だからこそ伝えられる、北欧インテリアの魅力とは?

 行正さんが、北欧の豊かな暮らしをたくさんの実例で解き明かした『照明と家具から始める北欧インテリア』より、一部を抜粋してお届けします。

» 続きを読む:《北欧の人々の幸福度が高いのは》元デンマーク親善大使・行正り香さんが出会った“心が満たされる暮らし”「いいかげんにヒュッゲしなさい!」


丸みのある家具を部屋に迎える――それは人を包み込む形

 テーブルも椅子も、丸みがあるほうがよりやわらかいーー私はそう感じます。直線で構成された家具は理知的でクールですが、日々の暮らしの中では、ときに人の身体や気持ちを置き去りにしてしまうことがあります。

 たとえば、アルネ・ヤコブセン、フィン・ユール、ハンス・J・ウェグナーといった北欧の巨匠たちや、現代のデザイナーであるリッケ・フロストの作品には、人を包み込むような丸いフォルムを大切にしたデザインが数多く見られます。背や肘、座面へと連なるやわらかな曲線は、座る前から「ここにいていいですよ」と語りかけてくるようです。

 一方、黒やグレーでまとめられた空間に、長方形のテーブルと直線的なソファが並び、明るいLEDライトに照らされている部屋に入ると、私は少しだけ居心地が悪くなります。使われている素材はきっと上質で、丁寧に選ばれたものばかりなのでしょう。それでも、なぜか心が落ち着かない。身体がふっと力を抜ける場所が、見つからないように感じてしまうのです。

 丸みのある家具は、空間に自然な余白を生み出します。角がないことで視線がすっと流れ、気持ちもどこか滞らなくなる。そこに間接的な、あたたかみのある黄色い光が加わると、空間は一気に人の気配を帯びてきます。

 すべてを丸みのある家具で揃える必要はありません。椅子一脚、小さなテーブル一つでもいい。直線の多い部屋に、やさしい曲線をそっと迎え入れてみる。それだけで、暮らしの中にほんの少しのやわらかさが生まれるはずです。

次のページ リッケ・フロストのデザイン哲学――デザインは人のためにある