嫌な思いをする度に「美味しそうな材料をいただいたわ」と…

――ドキュメンタリー的という話もありましたが、学生時代に見た目のことで馬鹿にされるようなシーンに向き合うのは、つらい部分もあったのでは?

ゆりやん:それが、つらいというよりは楽しかったんです。昔言われて嫌だったことを目の前で再現してもらったり、その体験をオマージュしたシーンを撮っていると、「もっとこういう感じにしたい!」ってワクワクしてきて。

――荒療治というか、過去の記憶を客観視できたわけですね

ゆりやん:当時はただただつらくて、悔しくて、許せなかった。でも、映画をつくる前から嫌な思いをしたら「コントにしてやろう」という精神はあったんです。だからとにかく、何か別の形に変えたかった。撮影中は、過去の体験を新しい価値のあるものに書き換えていく感覚で、「いいじゃん!」とすごくポジティブな気持ちでした。

小田切:それは、ゆりやんさんに自信がついてきたからこそできることですね。実体験を「材料」として調理して、面白いものに仕上げようという。最高のタイミングだったんだと思います。

ゆりやん:ありがとうございます。それ、すごく感じます。

――小田切さんも、ご自身の著書『美容中毒』で過去の体験を綴られていますね。

小田切:ええ。嫌がらせをされたり、つらい仕打ちを受けたことも全部書いています。でもそれも、ポジティブに捉えてもらうための本なんです。新人の頃や、売れ始めてからも、ヘアメイクという職業のヒエラルキーの中で悔しい思いをたくさんしてきました。でも、それをスルーするのはもったいない。嫌な思いをする度に「美味しそうな材料をいただいたわ」と思って、ずっと日記に書いていたんです。

――それを公開したことで、変化はありましたか?

小田切:本としてアウトプットした瞬間に、魂のステージが一段上がった気がしました。「私の人生、全部材料にできた。最高!」って。ゆりやんさんも、この映画を世に出したことで、内側のステージが上がったんじゃないかしら。

ゆりやん:……なんだか今、小田切さんと喋っていたら、頭のここらへんがパカーンって開いてきた気がします! このイメージが合ってるかわからないけど(笑)、スッキリ広がっていくような感覚です。

小田切:たぶんなんですけど、過去を客観的にみて、この映画をつくったことによって、ゆりやんさん自身、救われた部分があると思うんです。それは、過去のつらい経験を「味」に変えて、魂を解放できた証拠ですよ。もし恋愛が全部ハッピーエンドだったら、この映画のような深みは出なかったはずですから。それにこの作品がまたほかの誰かを救うことだってあるかもしれない。

ゆりやん:本当ですね。……よし、次は小田切さんを映画化しましょう(笑)!

小田切:やだ、最高(笑)! でも本当に、過去の嫌なことや、人から受けた仕打ちを全部さらけ出した瞬間に、人生の主導権を握り返せるのよね。

ゆりやん:嬉しいです。そう思うと、あの時私を振ってくれた人にも感謝したくなってきました。私、魂のランク上げたわ!

ゆりやんレトリィバァ(ゆりやんれとりぃばぁ)

1990年奈良県生まれ。関西大学文学部卒業。大学在学中の2012年に吉本興業NSC入学。17年、THE W優勝。21年R-1グランプリ優勝。ドラマ『極悪女王』で主演を務めるなど、活躍の場を広げている。

小田切ヒロ(おだぎり・ひろ)

ヘア&メイクアップアーティスト。唯一無二のセンスと、わかりやすくユーモアあふれるトークで人気を博し、YouTube「HIRO BEAUTY CHANNEL」は登録者数160万人を突破。SNS総フォロワー数360万人。

ゆりやんレトリィバァさんが「美容」特集の表紙に登場!

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映画『禍禍女』

お笑い芸人のゆりやんレトリィバァが映画監督に初挑戦した作品。「好きになられたら終わり」という「禍禍女(まがまがおんな)」を題材に、ゆりやん自身のこれまでの恋愛を投影しながら描き出す。「愛されなくても別に」の南沙良が主演を務め、ある男性に思いを寄せる美大生・上原早苗を演じる。共演には「ベートーヴェン捏造」の前田旺志郎、「PERFECT DAYS」への出演など多方面で活躍するパフォーミングアーティストのアオイヤマダ、「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの髙石あかり、お笑い芸人の九条ジョー、数々のドラマや映画に出演する鈴木福、Netflixドラマ「極悪女王」でゆりやんと共演した斎藤工、「幼な子われらに生まれ」などの田中麗奈ら豪華キャストがそろった。「ミスミソウ」「許された子どもたち」などの監督・脚本で知られる内藤瑛亮が脚本を手がけ、作詞・作曲家で音楽プロデューサーのyonkeyが初めて実写映画の音楽を担当。2025年・第62回台北金馬映画祭で日本人監督初となるNETPAC賞を受賞するなど、海外の映画祭で注目を集めた。