フレデリック・カッセルと聞いて、「あの美味しいお店」と思い浮かぶあなたは、食のプロか、美味しいものをよく知る食通でしょう。カッセル氏は、フランスを代表するパティシエ・ショコラティエであり、世界トップレベルの菓子職人が名を連ねる組織「ルレ・デセール」の名誉会長でもあります。バレンタインのタイミングで来日した、日本にも多くのファンを持つフレデリック・カッセルさんに、チョコレートジャーナリストの市川歩美さんが、現在の活動や思い、そしてこれからの展望を聞きました。
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「ライバルだから協力しない」という考え方はない
――まずは、先月フランスで行われた世界大会「トロフィー・インターナショナル・ドゥ・ラ・パティスリー・フランセーズ」(フランス菓子の伝統と技術を競う大会)の優勝、おめでとうございます!
ありがとうございます! 私はフランスチームのコーチを務めていたのですが、本当にうれしいです。
出場したのは、私の店で一緒に働いているスティーブン・ジェローです。スタッフと二人一組、つまり「フレッド(私)とスティーブン」で優勝したんです。日本も2位で健闘していましたね。大会を通して多くのことを共有でき、スティーブンを誇りに思っています。
――改めて、フランスを代表するフレデリック・カッセルのお菓子やチョコレートを、日本で味わえてうれしいです。カッセルさんは「ルレ・デセール」の名誉会長でもありますが、どのような活動をしているのですか。
私は15年間「ルレ・デセール」の会長を務めました。現在はヴァンサン・ゲルレにその職を引き継ぎ、名誉会長として活動を見守っています。フランスのパティスリーを守り、発展させるために、伝統を大切にしながらも常に新しいことを受け入れています。
「ルレ・デセール」の意義は、所属するメンバー同士が技術や経験を交換し合いながら、フランス菓子を発展させていくことにあります。今は、およそ100名のパティシエ・ショコラティエで構成されていますが、レシピや知識など、あらゆるものを共有できるのが特徴です。
「ライバルだから協力しない」という考え方はないんです。こうしたオープンな姿勢は、他の業界になかなかない、私たちの組織ならではの点かもしれませんね。
――カッセルさんご自身も、メンバーから学ぶことはありますか。
あらゆるものが共有されている「ルレ・デセール」ですが、そこから学ぶものはあくまでも発想です。「おいしい」へと至るためのヒント。ピエール・エルメからも、ヴァンサン・ゲルレからも、レシピを教えてもらったことがありますが、それをそのまま使うことはありません。ただの真似ではないんです。たとえば、ピエール・エルメのビスキュイをおいしいと感じ、「なぜおいしいのか」と尋ねれば教えてくれます。けれども、参考にするのは発想です。
――多くの発想や技術の交換があるからこそ、フランスのパティスリーは進化してきたのですね。
そのとおりです。レシピは重要ですが、それ以上に「改善」が大切です。自分の中にあるものを使い、新しいものを生み出すこと。オリジナリティが欠かせません。パティシエ一人ひとりに、それぞれの個性があるのですから。
