「移動が居場所になる時代へ」をテーマにしたトークイベント「AFEELA Talk Salon」が、東京・銀座で開催されました。

 ゲストにはエッセイストの松浦弥太郎さんを迎え、移動時間の心地よい過ごし方について対談を実施。移動時間にどんな価値を見いだせるのか、どんな時間として捉え直せるのか、そしてソニー・ホンダモビリティのEV「AFEELA(アフィーラ)」によって移動空間はどう変わっていくのか──。

 本記事では、その対談の模様をお届けします。


移動時間を豊かなひとときに変える

 移動はこれまで、目的地に着くまでの待ち時間として捉えられがちでした。しかし近年は、豪華列車やクルーズ船のように、移動そのものを楽しむ旅が注目を集めています。では、日常の移動もより心地よく、豊かなひとときになるとしたら、私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。

 ソニー・ホンダモビリティは、そんな可能性を形にすべく新しいモビリティを追求するブランド・AFEELAを立ち上げました。ホンダの高い走行性能と安全技術に、ソニーの映像・音響・インターフェースといったエンターテインメント技術を融合した、次世代モビリティです。

 その第1弾モデル「AFEELA 1」には、運転支援機能や大画面ディスプレイ、空間オーディオ、AIによるパーソナライズ機能などを搭載。目的地へ向かう手段だった車を、読書や仕事、映像鑑賞に没頭できる空間へと進化させ、移動空間そのものを豊かな体験へと昇華させています。

 こうした移動の価値を見つめ直す場として開催されたのが「AFEELA Talk Salon」。当日は、文化やライフスタイルの分野で高い支持を集めるエッセイストの松浦弥太郎さん、ソニー・ホンダモビリティでAFEELAプロジェクトを率いる纐纈(こうけつ)潤さん、ナビゲーターのクリス智子さんが登壇。移動時間を暮らしの豊かさへとつなげるヒントや、これからのモビリティがもたらす可能性について語られました。

オンからオフへ。移動は内省とアップデートの時間

 トークセッションの最初のテーマは「移動とは何か」。まずは、「普段、移動中にどんな過ごし方をしているか」という話題から対談がスタートしました。

クリス 松浦さんは運転がお好きなんですよね。

松浦 はい。車そのものも好きですが、それ以上に運転する時間が好きなんです。

 移動中って、ふっと遠くを見る瞬間があるでしょう。東京で暮らし仕事をしていると、日常の中で遠くを見るって意識はあまりないんですけど、車に乗って移動していると、信号で止まったときなどにふと遠くに目を向けている自分がいる。

 その瞬間に自分と向き合うというか、スイッチがオフになるような感覚があって。それがきっと、運転が好きな理由なんじゃないかなと思っています。

クリス 纐纈さんも運転はお好きですよね?

纐纈 実は、運転が得意というわけではないんです。でも、運転している時間ってある意味“無”になれるというか、料理をしている感覚に近いんですよね。仕事や家庭のことなど、日常のあれこれから少し離れられる時間だと感じています。

クリス 移動にもいろんな形がありますよね。歩く、電車、船……それぞれに魅力がありますが、車は“自分だけの空間”があるところが特別だと思います。

松浦 そうですね。車は移動のための道具でありながら、自分の部屋のような感覚がある。移動中にその空間が心地いいか、リラックスできるかが大事ですね。電車やタクシーも、環境次第で我慢の時間にもリラックスの時間にも変わる。「もう少し乗っていたいな」と感じられるくらいが理想です。

クリス 居心地が良ければ、移動時間そのものが豊かになりますよね。実際、松浦さんは移動中、どんなふうに過ごしていらっしゃるんですか?

松浦 僕にとって移動時間は、自分に立ち返る大切なひとときなんです。日常ではどうしても仕事や家族、友人との関わりが優先されて、自分のことは後回しになりがちになる。だからこそ、移動中だけはふっと力を抜いて心をオフにし、自分の好きな感覚や心地よさを取り戻すようにしています。

クリス 移動の時間や距離によっても感じ方は変わりますよね。日常の20分の移動と2泊3日の旅では、まったく違う体験になると思うんです。

松浦 とある人の言葉に「移動距離にその人のセンスや感性の豊かさは比例する」というものがあります。日常でも旅でも、さまざまな場所に行くほど、その道中で多くのことをインプットできる。学ぼうと気負わなくても、移動するほど感性やセンスが磨かれていく。

 その感覚にとても共感していまして、どんな移動手段であっても、移動という行為そのものが自分の感性を育ててくれる大切な機会になると思っています。

纐纈 目的地へ向かうまでの時間や距離も、実は自分を豊かにしてくれるチャンスなんですよね。移動は、自分をアップデートしてくれる時間になり得ると思います。

松浦 そうなんです。移動ごとに移ろう景色も空気感も違うからこそ、その度に気づきや発見、学び、感情が生まれる。ある意味、インプットの時間なんですよね。その心地よさが、移動の魅力なんだと思います。

クリス 松浦さんは、移動しているときに本を読んだり、映像を観たりはされます?

松浦 本を読んだり、音楽を聴いたり、スマホで何かを見るのも好きなんですけれど、移動中はあえて何もしないようにしているんです。何かに集中してしまうと、あっという間に目的地に着いてしまう。それが少しもったいない気がして。何もしないでいると、「オフの自分は今どんな気持ちなんだろう?」と自然に考える時間になるし、同時にリラックスもできるんです。

クリス 確かに、気づけば私たちはいつもオンの状態になっていますよね。何かを見たり、調べたり、没頭したり。時間に追われて焦ることもあるけれど、時間の質は工夫次第で変えられるし、その変化が私たちの生活をもっと豊かにしてくれる、そんなふうに感じます。

松浦 僕が日頃から意識しているのは、できる限り急がないことなんです。急いでも、実はあまり良いことってないですよね(笑)。そもそも物理的にできることには限界がありますし、無理に急ぐとかえってトラブルを招きかねない。「急がば回れ」という言葉がありますが、まさにその通りで。だからこそ急がず、自分が安心できる過ごし方やリラックスできる方法を一つずつ見つけていこうと思っています。

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