私の家には保育園に通う5歳の双子がいる。夫婦ともに自営業で、経済的にも体力的にも余裕はない。ひと月ほど前、子どもの1人が公園の遊具から落下し、顔面を強打して救急車で運ばれるということがあった。さらにその後、双子たちがリレーで感染症にかかり、2週間ほどまともに登園できなかった。仕事はほとんどストップし、家の中には重たい空気が流れた。幸福だけど、しんどい。楽しいけど、不安。はたして自分は、ちゃんと“親”をできているのだろうか?
本書は、〈7人のパパ作家〉が子育てに奮闘する父親たちの姿を描いた短編小説集だ。同期だった妻に出世で先を越された父親、寝かしつけの戦力になれず自分の存在意義を見失う父親、妻を不機嫌にしないようコミュニケーションに細心の注意を払う父親、部屋から消えたトミカを推理小説のように探す父親、進学する息子につい上昇志向を求めてしまう父親、娘の髪を上手に結んであげられない父親、妻が専業主婦であることを知人に非難される父親――。どのシチュエーションも現代的で、今まさにあちこちの家庭で繰り広げられている光景ではないかと想像する。明確にそうと打ち出されているわけではないが、背景にジェンダーの問題が色濃くにじんでいるのが本書の特徴だ。
今の時代、父親と育児の関係を考える上でジェンダーの視点は不可欠なものだと思う。例えば、妻の出世に焦る気持ちはとてもわかる。それでつい〈女性活躍というトレンド〉を恨みそうになってしまうのも理解できる。しかし、その背景にはこれまで男性優位に働いてきた社会構造が存在する。だから自己矛盾や板ばさみの感覚がどうしても付きまとうが、その葛藤にじっと身を置く中で、見えていなかった他者の思いや自身の傷に気づいていく父親たちの姿が胸を打つ。
寝不足の妻を起こしてしまったときの無力感。育児をスマートにこなすパパ友への劣等感。子どもに八つ当たりしてしまったときの情けなさ。居場所がない、職場に迷惑をかけたくない、子育てに向いてないかもしれない。俺だって頑張ってる、もっと信頼して欲しい、どうやったらいい親になれるのか――。ここで描かれる〈令和パパたちの心の声〉とはおそらく、これまで父親たちの沈黙や抑圧、不機嫌や逃避といった形を取り、ちゃんと言語化されてこなかったものではないか。
〈血のつながりだけで親になれるわけじゃない。子どもと一緒に笑ったり泣いたり怒ったりしながら、一日一日をしぶとく積み重ねることでしか、おれたちは親になれない〉
本書に通底する父親たちの“しぶとさ”は、子育て中の私にとっても支えや励ましとなるものだった。生活は楽じゃないけど、この原稿も締め切りを過ぎてしまったけど、まだまだ育児の日々は続くのだ。
とやまかおる/1985年生まれ。ゆきなりかおる/1979年生まれ。いわいけいや/1987年生まれ。にたどりけい/1981年生まれ。いしもちあさみ/1966年生まれ。かわべとおる/1988年生まれ。かつせまさひこ/1986年生まれ。
きよたたかゆき/1980年東京都生まれ。文筆家。「桃山商事」代表。著書に『戻れないけど、生きるのだ』など。

パパたちの肖像
定価 2,200円(税込)
光文社
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