映画“トワイライト・ウォリアーズ”のスタッフが再現した、消えゆく香港の景色

 そんな2店舗目ですが、ケンさんにはかねてよりやってみたいコンセプトがあったのだと言います。

「香港の繁華街といって日本人の方がイメージするのは、ビルとビルの間に無数のネオン看板が乱立している、賑やかでパンクだった1970年から80年代の香港の光景かもしれませんが、実はああいったネオン看板は台風で落下する危険性から撤去されており、もう今の香港にあの景色はありません。私はこの失われた景色を保存しておきたかったのです。

 それに、こうした景色への憧れは日本人の方にも一定数あるのでは、という期待もありました。実際、かつてお台場にあった香港を再現した商業施設の『台場小香港』や、川崎にあった香港の有名建築群“九龍城砦”をSFチックに再現したゲームセンターである『電腦九龍城寨(ウェアハウス川崎)』など、すでに閉店してしまった昔の香港の空気を感じられる施設の復活を望む声は少なくありませんでしたからね」

 幻の香港を再現するというビジョン実現のために、ケンさんらプロジェクトチームは腕のある内装業者を探したそうですが、その過程は困難を極めました。

「最初は日本の飲食店の内装をやっている業者の方にいくつかお声がけをしたのですが、難易度が高かったようでどこも断られてしまいました。悩んだ挙句、そうだ映画をやっている美術スタッフならできるのでは? と思い、日本の映画美術スタッフに声をかけたのですが、どこも映画製作中で忙しくてOKが出ませんでした。これに香港のことをあまり知らないのもあって、満足のいく仕上がりにできないといって断られることもありました。

 お手上げかと思っていたところ、日本でも大ヒットした“九龍城砦”を舞台にした香港のアクション映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』を手がけたスタッフと連絡が取れたのです。しかも、ちょうど映画の仕事が終わった直後で腕も温まっていたタイミングでした」

 こうして最高のスタッフと作り上げた内装は、まるで90年代の香港にタイムスリップしたかのような見事な仕上がりに。ケンさんにそんな内装のこだわりポイントを聞きました。

「メインのネオン看板は香港の職人さんにお願いして作ってもらったものを持ってきました。あとは茶寮をイメージした内壁には大きなディスプレイを組み込んでおり、流している動画はうちの料理長をAIで茶寮の店員さんに変えたものです(笑)。

 また、お店のトイレにも注目してほしいですね。香港を走っているトラムを再現していて、お店の床にもちゃんとレールを走らせているほか、実際のトラムと同じ運転席を再現しているのでベルも鳴らせます。実は運転席は手洗い場にもなっているので、手も洗えますよ」

 徹底した世界観作りが功を奏して、常連となった老夫婦からコスプレ姿の若い女性客まで、幅広い客層を獲得した「J仔酒場」。後篇では、内装に負けないこだわりが詰まった絶品香港料理についても詳しく紹介していますので、こちらもぜひチェックしてみてください。

J仔酒場大排檔

所在地  東京都渋谷区宇田川町26‐11 白馬ビル B1
電話番号 03-6427-8989
営業時間 11:30~15:00(料理L.O.14:30、ドリンクL.O.15:00)、17:00~23:00(料理L.O.22:30、ドリンクL.O.23:00) ※土・日曜、祝日は通し営業
定休日 無休