ここ数年、「ガチ中華」というキーワードをきっかけに、日本国内で本格的な中国料理への関心が急速に広がっています。その中でも脚光を集めているのが「香港料理」。実際、香港ではコンビニより多いとも言われている、大衆カフェ兼食堂である「茶餐廳(チャーチャンテン)」というスタイルのお店は、日本でも数年前から店舗数を増やしつつあります。
サンドウィッチ、奶茶(ミルクティー)、麺類、菠蘿包(パイナップルパン)など、イギリスの植民地文化と融合した肩肘張らない庶民的なその味は、多くの日本人の心を捉えています。そうした本格香港料理を提供しているお店の中で、今SNSを中心に大きな注目を集めているのが、今年の8月に渋谷のセンター街にプレオープンしたお店「J仔酒場(ジェイボーイサカバ)」です。
今回はそんな話題のお店を訪問し、同店のマーケティング・ディレクターでもあるケン・ロさんに、創業までのヒストリーを聞きました。
老若男女に海外観光客まで…多様な人々が集まる場所を選んだ理由
JR山手線渋谷駅のハチ公口から徒歩約5分。今や観光名所と化したスクランブル交差点を抜けてきらびやかな渋谷センター街を進んでいくと、目を惹く緑の看板が見えてきます。
今回訪問した「J仔酒場大排檔(ジェイボーイサカバダイパイタイ)」、通称「J仔酒場」は、センター街の地下に広がる本格香港料理のお店です。
イギリス風の格調高いデザインが、徐々に香港の古い下町風に変貌していく階段を降りていくと、まるで倉庫のような金属製の無骨な扉が見えてきます。重い扉を押し開けると、目の前にはネオン看板輝く香港映画のような光景が飛び込んできました。
古びた理髪店に駄菓子や日用品を扱う雑貨店、香港名物のウーロン茶やプーアル茶を扱う茶寮。一見すると本物に見えるこれらのお店は、全て精巧に作られたフェイクとなっており、まるでテーマパークにでも迷い込んだかのような気持ちにさせられます。
徹底した内装の作り込みが魅力の「J仔酒場」ですが、渋谷センター街の入り口に居を構えようと決意した理由はなんだったのでしょう。
「ここ数年、日本に多くの外国人観光客が訪れています。特にこの渋谷という街は老若男女問わず多くの人が来るので、香港文化を知ってもらうには理想的な場所でした。とはいえ、渋谷で物件を見つけるのが難しかったのも事実です。本当は今みたいな地下ではなく1階にお店を構えたかったのですが、結果的に内壁を色々いじれたので地下で良かったと今では思っています(笑)」(ケン・ロさん、以下同)
出店の経緯について深掘りしていくと、ケンさんは興味深いお話を聞かせてくれました。
「実を言うと、この『J仔酒場』をオープンする前の2023年の10月28日に、『Jジャイ香港ストリートフード』という、テイクアウト専門店を通りの向かいに出しています。こちらでは香港フィッシュボールやエッグタルトといった、片手で食べられる軽食やドリンクを中心に扱っているのですが、ありがたいことにSNSで注目をいただけました。そちらの成功もあったのでもう一店舗、今度はもっとお客さんがゆっくりとくつろげるお店を出そうと思い立ったのです」
