この記事の連載
◆8位『楽園をめざして』ふみふみこ/講談社

主人公は躁と鬱を繰り返す「双極症」を患う昇司。強い鬱状態のときには何日も布団から出られないほどですが、古い一軒家で翻訳をしながらどうにか生活を成り立たせています。物語の幕開けは、昇司の弟が事故死したという報から。義妹にあたる弟の妻・今日子と乳児の結を支えるため、昇司は共同生活を提案。整体院を営む今日子に代わり、家事と結の子守を引き受けるのです。
鬱のときには何もできなくなる自分を申し訳なく思う昇司に対し、今日子は一貫して落ち着いて対応するし、結も彼に懐いていて――しっかりと家族的な風景にホッとします。お互いを思いやる健やかさに、人間の本質的な幸せのありようを実感します。一方で、きれいごとでは乗り越えられない心の病の現実を、著者の実体験を踏まえて伝える意欲作です。

◆「悩み苦しんでいるのは自分だけじゃないんだ」そう思えるだけで楽になれる人がどれだけいるだろう、そう感じました。(ぶんか社 comicタント/comicルクス編集部 ゴトウショウヘイさん)
2025.10.15(水)
文=粟生こずえ
写真=平松市聖