この記事の連載

光が浮かび上がらせる“誰かの痕跡”

 そのタイトル通り、この映画には、か細いけれど美しく輝く光が満ち溢れている。深夜のリビングで、プラバがこっそりと同僚からのラブレターを読むとき、携帯電話からの光が愛の詩を照らし出す。仕事帰りにプラバがひとり映画館へと入り、暗闇で見つめるのもまたスクリーンに照らされる光だ。

 ふたりがパルヴァティに付き添いやってきた海辺の街では、真っ暗な洞窟のなか、かつて誰かが壁に残した無数のメッセージが光と共に浮かび上がる。光はいつだって、誰かが存在した痕跡を、いつか書き残した言葉を、暗闇のなかに浮かび上がらせてくれる。

 3人の女性たちが抱える問題に、解決の糸口が見つかるわけではない。それでも、ムンバイから海辺の街へと移動するなかで、彼女たちはそれぞれに一歩を踏み出し、互いの間にあった距離はいつしか近づいていく。少しずつ変わりゆくこの関係にあえて名前をつける必要はない。光の下で、3人は見つめ合い、笑みを浮かべる。それ以上に必要なものなど何もないのだから。

『私たちが光と想うすべて』

7月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
© PETIT CHAOS - CHALK & CHEESE FILMS - BALDR FILM - LES FILMS FAUVES - ARTE FRANCE CINÉMA - 2024
配給:セテラ・インターナショナル
https://watahika.com/

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Column

映画とわたしの「生き方」

日々激変する世界のなかで、わたしたちは今、どう生きていくのか。どんな生き方がありうるのか。映画ライターの月永理絵さんが、毎月公開される新作映画を通じて、さまざまに変化していく、わたしたちの「生き方」を見つめていきます。

2025.07.27(日)
文=月永理絵