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真っ赤な炊飯器は何を象徴しているのか

 プラバの抱える悩み、それは自身の結婚生活のこと。彼女はかつて家族が勧めた相手と結婚をしたものの、夫は結婚直後にドイツで仕事を見つけ、長い別居生活のすえ今では音信不通状態にある。そんなある日、突然ドイツから彼女のもとに最新型の真っ赤な炊飯器が送られてくる。送り主は本当に夫なのか。彼だとすれば、なぜ今これを自分のもとへ送ってきたのか。

 この炊飯器の登場が印象的で、先日カパーリヤー監督にインタビューをした際、その理由を聞いてみた。すると監督は、炊飯器のような電化製品がどのようにCMなどの映像作品で映されてきたかに興味があったのだと答え、「“理想の家族生活”を表す道具として、セクシーといえるくらい強い照明を当てられ美しく描かれてきた」炊飯器は、「まさに家父長制社会と消費主義社会の象徴」なのだと語ってくれた(『週刊文春』7/31号掲載)。

 美しく光り輝く炊飯器を贈り物に選んだプラバの夫は、「これを使って美味しいご飯を作ってね」と言いたいのだろうか? 一緒に暮らしていなくても、変わらず妻として家事をしていてほしいというメッセージ? 謎の贈り物を前に、プラバは夫に思いを馳せるが、彼の顔も声ももう記憶の中で朧げになっていて、今では、優しい同僚医師の方が彼女にとって身近な存在のようだ。

2025.07.27(日)
文=月永理絵