この20年で、恋愛しなきゃいけないムードはなくなった
角田 思い返すと、20年前はもっと世の中が恋愛していたんですよ。この20年で、恋愛しなきゃいけないムードはなくなったと感じます。現代の20代の方なんて、ことに恋愛しないんじゃないかと思うんですけど、実際周囲をご覧になってどうですか。
三宅 そうですね、恋愛よりも早く結婚したい、と言う人が多い感覚はあります。もちろん結婚に興味がない人もいます。が、恋愛するなら早く結婚して安定したい、と早く結婚するケースが増えているように思いますね。だからこそ恋愛している人の総数が減っているのではないかと。さらに近年はマッチングアプリで恋人に出会う人がものすごく増えました。

会社の人との恋愛はハラスメントにつながる危険性がありますし、学生さんもバイトで忙しくてサークルに入らなかったり、恋愛が偶然の出会いから始まるケースが減っています。恋愛って人間性をぶつけ合うことですが、その営み自体がフィクションになっているのかな、と思いますね。
でも、だからこそ恋愛に憧れている人の数は意外と増えているのではと。例えば、ライトノベルの分野では「溺愛もの」がすごく増えています。組長や鬼に溺愛されたり、男性がハーレムものを読むように、女の子が溺愛ものを読むようになってきました。角田さんは、今の時代に、人間関係を描く中で感じる変化はありますか?
角田 逆に、恋愛小説を書きたいっていう気持ちが芽生えました。
三宅 角田さんの恋愛小説の新作、読みたいです!
文:内藤麻里子 写真:鈴木七絵
◆「修羅の輪廻」だというマッチングアプリで繰り広げられる恋愛模様、“メッセージ”や“答え探し”の風潮に思うこと、角田さんが『方舟を燃やす』の執筆中に小説で食べていけるか悩み、パソコン教室に行ったエピソードなど、対談全文は『週刊文春WOMAN2025夏号』および『週刊文春 電子版』でお読みいただけます。
みやけかほ/1994年生まれ、高知県出身。文芸評論家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で新書大賞2025受賞。著書に『「好き」を言語化する技術』、『娘が母を殺すには?』など。
かくたみつよ/1967年神奈川県生まれ。90年海燕新人文学賞を受賞した「幸福な遊戯」でデビュー。2005年『対岸の彼女』で直木賞、21年『源氏物語』訳で読売文学賞、25年『方舟を燃やす』で吉川英治文学賞を受賞。

2025.07.12(土)
文=内藤麻里子
写真=鈴木七絵