世界で観客の涙を絞った話題の“涙腺崩壊映画”『おばあちゃんと僕の約束』が公開される。口コミで話題を呼んで世界各地でヒット、タイ映画としては初めて米アカデミー賞のショートリスト入りを果たした。来日したパット・ブーンニティパット監督に、話を聞いた。

◆◆◆
河瀨直美や是枝裕和の映画が大好き
【ゲーム配信をすると言って大学を中退したのにダラダラした生活を送っている青年エム(プッティポン・アッサラッタナクン/ビルキン)。彼には、ひとり暮らしの祖母メンジュ(ウサー・セームカム)がいた。祖母にステージ4のがんがみつかったとき、介護すれば遺産を残してくれるのでは……とエムが不純な動機をもったことから始まった、祖母と孫の同居生活。病気が進行するなか、次第に近づいていく2人と家族のこころを静かなタッチで描き出した作品だ。ラストには邦題にある「約束」が胸に迫り、まさに号泣必至である。】
パット・ブーンニティパット監督(以下、監督) 日本映画が大好きなので、私の映画が日本で上映されるのがとても嬉しいです。河瀨直美さんや是枝裕和さんの映画が好きです。映画に興味を持ち始めた頃に、映画館で(河瀨監督の)『殯の森』を観たのですが、激しく心を動かされました。自分もこんな気持ちを観客にさせるような映画を撮りたいと思って、それが映画をつくるきっかけになったんです。
——タイで人気のある日本の監督というと、どんな方になるんでしょうか?
監督 アニメも結構人気がありますが、実写映画に限って言うと、是枝裕和監督ですね。普段、映画館に行かない私の母でさえ『そして父になる』を知っていましたし、映画制作者たちの間では『誰も知らない』が話題になっていました。
【現在34歳のブーンニティパット監督。本作が劇場用映画デビュー作だというが、タイでは「早くも遅くもない、普通です。天才というわけではありません」。デビュー作が世界で大ヒットしているのだから天才と言ってもいいのでは? と言葉を投げると、日本語で「まだまだです」と微笑んだ。】

——今回の映画は、脚本家の経験がベースになっているそうですが、高齢のおばあさんが独りで住んでいることは、実際にタイでもよくあるのでしょうか?
監督 最近よく見るようになりました。特に古い町並みがある地域の、タウンハウスという集合住宅に老人が一人で座っているという光景を、最近よく見るようになったんです。多分、1世代前くらいからそういう状況になっているんじゃないかと思います。
——日本は独居老人がどんどん増えていて、子供と断絶してしまったりと、社会問題になっている部分もありますが、タイでもそのような傾向が?
監督 タイでは、子どもたちが独立して家を出ていくことは多いですが、完全に親と断絶するということはそれほどありません。週に1、2回親に会いに行ったり、人を雇って同居させて面倒を見させたりしています。
2025.06.16(月)
文=週刊文春CINEMAオンライン編集部