主人公にビルキンを選んだわけ

——おばあさんと孫のキャスティングが大変素晴らしかったと思うんですが、お孫さん役のビルキンは、どのようにして選ばれたのでしょうか?

監督 彼は以前私が手掛けたドラマシリーズで一緒に仕事をしたことがあって、その時に彼の演技の才能、特に自然な演技ができるところに惹かれました。彼はいつも自然体でいられるんです。今回の役は、孫が財産を期待しておばあちゃんに近づくという設定なんですが、それを演じる役者を観客が見て、嫌な気持ちになってはいけない。無知だけど悪い人間ではないと思わせる人物がいいと思いました。ビルキンは観客にそう思わせることができたんです。

——例えば最後の方で、おばあちゃんの棺をトラックに乗せて運んでいくシーンの、トラックの上の彼の表情がすごく良かったですね。

監督 そのシーンは、脚本には、セリフとおばあちゃんの棺をトラックで運ぶということしか書いていなくて、どう演技するかということは一切書いていなかったんです。ちょうどその頃、私の恋人のおばあさんが亡くなって、火葬してその遺骨を川に流すということがありました。みんな泣いている中で、彼女だけは「おばあちゃんが自分を見ているような気がするから、泣いて心配をかけたくない」と思って涙をこらえていた。それを聞いた時に、きっとこの映画の主人公も同じ気持ちになるだろうなと思って、撮影の日にビルキンにその話をしました。

——大げさな演技は抑えめにして、観客の方で読み取ってもらう演出を指向されていると思ったんですが、そういう意図はされていますか?

監督 ええ。経験上、撮影中に何か指導すると、途端に役者の演技から自然さがなくなってしまうんですよ。だから撮影前にどんなシーンかという説明だけをしました。そうすることで、俳優の自然な演技を観客に届けられると思っています。

2025.06.16(月)
文=週刊文春CINEMAオンライン編集部