図星だった。有馬は、立て替え金を代わりに出してやるというケースケさんの提案を断っている。

「実際の金銭事情がどうかは知らないが、ご両親が健在なら、そこから引っ張ってくるという手もあるだろう。なんならディオール着られるくらいなんだから、今も真に困窮してるわけではなさそうだ。ホストやっていた数年間での、ちょっとした貯金ならあるんじゃないか。それを差し出し、後は毎月の給料から天引きしてくれ程度の話はお店とできるだろう。なのに、どれもしていない。愛李くんみたいなタイプが本当に金欲しいなら、ウーバーなんてやらないよ」

 有馬は俯いた。

「とはいえ戻りたい思いが噓というわけでもない。だって、縁を切りたいなら、とっとと逃げてしまえばいいんだから。キャストが完全に行方をくらますなんて、珍しい話でもない」

「飛んだはずの奴が、カブキの別の店にいたなんてこともありました」

 頰をひくつかせながら言った。黙ったままでいることが、段々と耐えられなくなってきた。

「中途半端な位置にずっといる。何故か。愛李くんが真に欲しいものが、金でも、ホストという立場でもないからだ。君は」

 ジンが言葉を止めた。しばし、沈黙が挟まる。有馬が顔を上げたところで「自信が欲しいんだ」と続きがきた。

「よかろう、与えてやる。ただし、困難な道のりにはなる」

 ジンの顔は、まさに有馬が欲しいものに満ち溢れているように見えた。

「困難」

 有馬は思わずオウム返しをしてしまう。なんだか似つかわしくない単語が出てきた。こうした話は、「簡単なお仕事」と言うものではないのか。

「愛李くんの願いがもっと簡単なものなら良かったのに、とこちらも思うよ。たとえばこんな演出だって準備していた」

 ジンが右手を掲げた。目が吸い寄せられたところで、ぱちんと指が鳴らされる。

 瞬間、今まで聞こえていた音が全てなくなった。

バッドフレンド・ライク・ミー

定価 1,650円(税込)
文藝春秋
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2025.06.24(火)