「愛李くんは向いていたわけだ」

「向いていたって言うか、俺、上手くこなせちゃうんですよ。こういうの」

「どういうの」

「下っ端の仕事っていうか。どこに気をつけて、何をしなければならないとか。覚えが早いみたいで。ケースケさんとか、それで可愛がってくれて」

 ジンが、プディングのカップをケーキスタンドから皿に移した。

「人間関係で続けようと思ったわけか」

「大きかったとは思います。でも、もっと強かったのは、なんか、ケースケさんみたいになりたかったというか。あの人、もう三年、一千万プレイヤー継続しているんですよ。もっと言うと、ここ二年は月間三千万切ったことないはず」

 初めてケースケさんのことを生で見た時、眩しいと思った。歌舞伎町の中に設置されている大看板、あるいは店頭のディスプレイで顔が大写しになっていたから、ドラゴンデイズに近づいたときから意識していた顔ではあった。だが、実際に対面した際にあったのは有名人に会ったという感慨ではなく、もっと別なものだったように思う。

 いるべくしている。あるべくしてある。そんな力強い輝きがケースケさんにはあった。

「成る程ね。面白い。大体わかった」

 ジンはいつの間にかプディングを食べ進めていて、最後の一すくいになっていた。それもすぐ口の中へと消えていく。

「愛李くん、ホストに復帰したいわけではないんだろう」

 有馬の右目が見開かれた。

「さっき、ケースケさんのもとに戻りたいって推理したのジンさんじゃないですか」

「そこがポイントなんだ。愛李くんは店に復帰したいのではなく、ケースケくんのもとに戻れる、もっと言えば店に堂々と帰れる、そういう自分になりたいんだ。第一義は、あくまでそちら」

「何か違うんですか」

「大違いなのは愛李くん自身が一番わかっているだろう」

 有馬は自分のカップを見た。空になっている。それを持ち上げて、下ろした。

「ただ店に戻りたいならどうにでもなるだろ。たとえばケースケくんはいきなりこの話を紹介したのかい。話を聞く限り三百万程度なら貸しにしてくれそうに思うけど」

2025.06.24(火)