夏は田んぼでホタルが乱舞し、幻想的な一夜を過ごせる温泉宿

 滞在中は、早朝の日の出前にスタートする「スノーシューガイドツアー」(冬季)や、本場フィンランドで味わえるようなプライベートサウナ、「里山“10 stories”サロン」といった講座など、オプション&アクティビティも見逃せません。

 さらに17時スタートの夕食を選んだゲストには、キッチンツアーも用意され、参加は自由。ツアーの内容は季節や担当者によって少しずつ替わるそう。主に春夏は周辺の山野草や自家栽培のハーブを摘んだり、秋冬では保存食を貯蔵する雪室や発酵部屋を見学したりと、里山の自然に直接触れながら、季節の移ろいを感じられる30分ほどのツアーです。

 この日は、春風がそよそよと気持ちよく、清々しい五月晴れ。

 「山の空気もごちそうです!」と笑顔で迎えてくれたのは、「早苗饗-SANABURI-」料理長の桑木野恵子さん。春のキッチンツアーでは周辺にある山菜をメインに散策します。

 周辺を歩きながら、この土地の風土や植生についてさくっと知ることができるキッチンツアー。5分も歩かないエリアに、フキノトウやフキ、たらの芽、かたくり、どくだみ、よもぎ、こしあぶらといった山菜が自生していることにびっくり。

 カエルの鳴き声、木々が風に揺れる音、鳥の声、どこからか流れる水の音、見渡す限りの緑にふと気づき、全身で里山の豊かさを体感することに。

 「食べられるかどうかわからない山菜は採らないのが正解です。ただ、基本的にシダ類には毒がないとされているので、万が一のときにはシダ類なら食べても心配ないと思います。おいしいかは別として(笑)」とサバイバルの知恵も織り込みながらガイドする桑木野さん。

 山菜のセリと有毒のドクゼリ、行者ニンニクと有毒のスズラン、うるいと猛毒のバケイソウなど、よく似た芽生えの若葉で山菜と間違えやすい有毒植物はたくさんあるのだとか。

 キッチンツアーの途中や最後には、季節の食材を使ったフィンガーフードやオリジナルドリンクが供されます。この日は、炭火で皮のまま焼いた熱々の「ねまがりだけ」が用意され、皮をむいて食べると香ばしく、シャキッとした食感と自然な甘みにうっとり。

 ちなみに、この時間にお風呂やサウナを満喫する、というのも「里山十帖」の過ごし方のひとつだそう。

 ちょっぴり贅沢なアぺリティフタイムを過ごしたあとは、そのままレストラン「早苗饗-SANABURI-」へ移動して夕食の時間。土地の風土や植生をかい摘んだあとに味わう里山キュイジーヌは、より感動を覚えるものです。

 春は採りたての山菜づくし、夏は伝統野菜や魚野川でとれた鮎料理、秋はきのこ三昧、冬は発酵食や保存食など、季節によって主役は変わりますが、どの皿をとっても滋味豊か。そして、“米仙人”が育てた最高級のコシヒカリを、大沢の湧き水で炊き上げた「ごちそうごはん」がメインディッシュに登場します。懐かしくも驚きに満ちた食文化を目の当たりにしつつ、至福のひとときを満喫。

「里山十帖」の客室は、巻機山を望むマウンテンビューの6室と森の景色を楽しむフォレストビューの6室、蔵をリノベーションした離れ、そして3分ほど坂を上がった場所に建つ、絶景のヴィラ・スイートがあります。

 それぞれ趣が異なりますが、大きな窓からふんだんに差し込む自然光、心地いいデザイナー家具にさりげないアート作品、リラックスできるオーガニックコットンの館内着、現代人に欠かせないWi-Fiも完備。

 山のど真ん中に位置する「里山十帖」周辺は自然の宝庫でもあります。月のない日は天の川までくっきりと見ることができ、テラスや露天風呂で天体ショーが楽しめます。また、6月中旬から7月中旬には、少し歩いた田んぼのあたりでホタルの乱舞を見ることができるそう。幻想的な一夜を過ごせるのも「里山十帖」ならでは。

 「早朝の露天風呂は最高ですよ」と桑木野シェフもおすすめする「湯処 天の川」へ。泉質はとろりとした化粧水のような湯。標高2000メートル前後の山々を望む露天風呂からの見晴らしに息を呑むこと間違いなし。なんというか、視界のほとんどが天空なので「ああ、地球にいるのだ」と当たり前のことを湯に浸かりながら実感できます。

 湯上がりには、懐かしの冷凍みかんと桃太郎アイスが用意されており、冷凍みかんを食べてみると、こちらが侮れないほど甘くて美味。温泉で存分に温まったあとの至福のクールダウンにぴったりです。

 そして、おいしい朝ごはん。メニューは「炊きたてごはんとごはんのおとも」「自慢のお味噌汁」「手作りのお漬物」「切り菜(きりざい)」で、一日のはじまりにふさわしい身体が喜ぶ優しい味がずらり。

 なかでも昆布と煮干しで出汁をとったスープと具材が用意される「自慢のお味噌汁」は、自分の好みで作るエンタメ感も味わえます。野菜に火が通ってしんなりしたら味噌玉を投入。ときたての味噌の香りはたまりません。

 また、切り菜(きりざい)とは、野沢菜やたくあんなどの古漬けを細かく刻み、納豆に混ぜ合わせてごはんにかけていただく魚沼地方の郷土料理のこと。醤油はつけずによく混ぜて、よく嚙んでいただきましょう。

 日頃の疲れをすっと消してくれる魔法があるとしたら、ゆるりと過ごす静謐な時間のなかにあるのかもしれません。

 ここにははっきりとした四季があります。訪れるたびに新しい感動の料理があり、数々のメディアに絶賛される温泉に、洗練と憩いを両立させた空間があります。里山の持つポテンシャルを全身で体感できる「里山十帖」。魚沼の多彩な魅力を発信するメディアとして、これからの進化も見逃せません。

里山十帖

南魚沼の雄大な自然に囲まれた土地にあり、四季折々さまざまな景色を楽しむことができます。とくに数々のメディアで「日本一」と紹介された絶景露天風呂が人気。また、食事は新潟の風土と文化に寄り添いながら山菜や伝統野菜を中心としたものを用意。食事と温泉を思う存分楽しみ、ゆったり過ごすことができます。

所在地 新潟県南魚沼市大沢1209-6
電話番号 0570-001-810
部屋数 13室
料金 1室2名利用 1名2食付 32,395円~
https://www.satoyama-jujo.com

2025.07.10(木)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵