ゆらゆらと揺れるだけの湖が私のリズムを作っている!?

――「地元は嫌いだった」「早く抜け出したい」と思っていたそうですが、やはり地元で過ごした時の思い出や影響からは逃れられないと感じる時はありますか?

 家の近くにある湖ひとつとっても、なんだかやる気がない感じでゆるゆる水面が揺れてるだけだし、「こんな場所に影響を受けたくない」という気持ちはまだあります。でも、この本を書いている途中に、地元を好き嫌いだけでは語れないことに気づきました。生まれ育ってから今に至るまで変わらない地元の景色が、私のリズムを作っているのかなって。常に動きがあって、人がたくさんいる東京の方に親しみを感じつつも、自分の日常には波が立たない方が好きですし、心のどこかであの面白みのない湖を求めているのかもしれません。

――中学生の時の担任だった栗山先生とのエピソード中にある「お酒を毎晩のむだけでは簡単に胃潰瘍にならないことを知っている」という一文は、強烈な印象を残しています。このように、今のひらいさんの支えになっている存在について教えてください。

 先ほど話した地元の湖のように、私のベースは、栗山先生とか当時の友だちにかけてもらった言葉などでできている気がします。

 ひとつ、印象に残っているエピソードがあって。自分が書いた作文を読む係というのがあり、私がその係に選ばれたんですが、そのために提出した作文に、先生にぎっしり赤字を入れられてしまったんですね。それを母親に見せたら「修正されたものを、先生ではなくめぐみがそのまま読んだら、少し偉そうだと感じられてしまうんじゃない?」って指摘されて。自分でもそう思ったので、翌朝先生に「今日、作文を読みません」って宣言したんです。私はどちらかというと優等生タイプで口答えするような生徒ではなかったから、先生はびっくりしつつも、私の気持ちを否定せずに「お前は、真っ向勝負できる人間だ!」「ちゃんと言いたいことが言える人間だから、その気持ちを大切にしろ」って言ってくれて。その先生の言葉のおかげで、「私って、負けちゃいけない時にはちゃんと言える人間なんだ」と思えるようになりました。もしかしたらこの経験は、転職したいと思ったら、辞めたいといえる今の姿勢につながったのかもしれません。

2025.06.14(土)
文=高田真莉絵
撮影=佐藤 亘