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NHKの番組でやってよかったのは…

――「もじりノート」は、若手の頃からつけていらっしゃるんですか?

安達 NHKでいちばん学んだことは何かといえば、「ちゃんと取材をする」ということなんです。最初に赴任した地方局で、ドラマ以外のジャンルすべてやらせてもらったのですが、このときの経験が大きいです。今でもやってよかったなと思う番組が「のど自慢」と高校野球中継。

 「のど自慢」はとにかく、出てくださる方の愛情が大きい。皆さん番組出演の記憶を宝物のようにして、同じ回の出演者の多くが同窓会を開いたりして、いつまでもご縁が続いているそうなんです。人と人を繋ぐ番組だから、これだけ長く続いているんだな、ということを体感しました。

 高校野球中継は、奥が深いんです。まず事前に、どういう個性で、どんな来歴の選手がいるのかを、両校に取材させてもらって、選手それぞれのことを把握しておく。そして、9回のゲームの間にどの選手をどう撮るかということを瞬時に判断してディレクションしながら、人間ドラマを紡いでいく。ものすごいプロフェッショナルな世界なんですよ。

 ドキュメンタリーもたくさん作りましたが、いわゆるタレントさんではない、本当に街で生きている人とちゃんと向き合って番組を作るためには、やっぱり「取材」なんです。若手時代にその経験を徹底的にさせてもらったので、ドラマや映画を作るときも同じ過程を踏めばいいんだと思ってやってきました。

――安達さんから見た堀之内プロデューサーの仕事ぶりは、いかがですか。

安達 私とは全然タイプが違うんですけど、とにかくフットワークが軽いのがすごいなと思ってます。人柄もあって、いろんなところに柔らかく入っていけるというか。「堀之内が先に走って耕しといてくれたら、あとはこっちでやるよ」みたいな役割分担です。

 あと、強運の持ち主ですね。無謀なことに突っ込んでいって、実現させてしまう力を持っている。「自分が怒られるだけなんで、大丈夫ッス」みたいな彼のフットワークの軽さが、何かいいことを運んでくるという気がします。いろんな企画やキャスティングなどがこれまで実現してきたのは、堀之内が思いの丈をまっすぐに人に伝えてきたからだと思っています。

堀之内 諦めは悪いほうですね(笑)。やった後悔とやらない後悔なら、迷わずやって後悔するほうを選びます。自分の心からの思いなら必ず通じると信じているので、あとは行動を積み重ねるだけですから。「運だけが取り柄」と言われるんですが、それはわりと嬉しい言葉です。自分でもそう思っています。

安達 長年いっしょにやってきたので、堀之内が元気で活き活きしてるときも、潰れそうになってるときも全部見てきました(笑)。いろんな時期があったので。

――神戸を舞台に、今後どんな作品を作っていきたいですか?

堀之内 これまでもずっとそうでしたが、僕がいつも目指したいと思っているのは、心の栄養になる作品。観てくださった方に「あ、なんか自分の人生、ちょっといいほうへ行きそう」と少しでも思ってもらえるように、幸せな道を進めますように。そんな願いを込めてこれからも作っていきたいです。現在すでに、ある映画の制作が始まっています。

安達 神戸に暮らして、また新たな出会いを求めながら、「生きている人」の物語を真摯に作っていきたいですね。

ミナトスタジオとは

2023年に神戸で生まれた映像プロダクション。神戸を拠点としながら、関西の優れたクリエイターたちとともに、世界に通用する質の高い映像作品を創り出し、よりよい社会の実現を目指している。
同社は、NHK土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」の主人公の精神科医のモデルとなった安克昌氏の実弟である安成洋氏が設立した。劇場版の上映活動を続ける中で、映像作品が心に傷を抱える人々の苦しみを癒し、前に進む勇気を与え、感動を通じて人生を変える力を持っているということを実感したことがきっかけになった。その後、元NHKプロデューサーの堀之内礼二郎氏を共同代表に迎え、もっと優しい世の中になることを願いながら、作品作りや上映活動を続けている。
https://www.minato-studio.com

安達もじり(あだち・もじり)

演出家・映画監督。主な演出・監督作品は、映画『港に灯がともる』、NHK連続テレビ小説「カーネーション」「花子とアン」「べっぴんさん」「まんぷく」「カムカムエヴリバディ」、大河ドラマ「花燃ゆ」、土曜ドラマ「夫婦善哉」「心の傷を癒すということ」(第46回放送文化基金賞最優秀賞受賞)「探偵ロマンス」、ドラマスペシャル「大阪ラブ&ソウル この国で生きること」(第10回放送人グランプリ受賞)、夜ドラ「バニラな毎日」など。

堀之内礼二郎(ほりのうち・れいじろう)

1979年、宮崎県出身。NHKで様々な番組制作に携わる。2012年にロサンゼルスでハリウッド流プロデュース術を学んだ以降は、プロデューサーとしてドラマ作品を制作するように。2025年、NHKから独立してミナトスタジオへ。NHK在籍時の主なプロデュース作品に連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(第47回エランドール賞プロデューサー賞)「まんぷく」「べっぴんさん」、大河ドラマ「花燃ゆ」、土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」(第46回放送文化基金賞ドラマ部門最優秀賞)など。NEP在籍時には映画『港に灯がともる』をプロデュースした。

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2025.05.03(土)
文・撮影=佐野華英