近年、話題作への出演がつづく鈴木亮平が「新しい挑戦」として選んだ映画『花まんま』。直木賞作家の朱川湊人による同名小説をベースにした、笑いあり涙ありの人情譚だ。

『俊樹は何を望んでいるか』が鍵

「これまで王道のヒューマンドラマにはあまり縁がなかった」という鈴木が演じるのは、大阪の下町で暮らす30代の加藤俊樹。幼い頃に父を、その後に母を亡くし、妹のフミ子を守るという父との約束を胸に、高校を中退して働いてきた。鈴木といえば入念な役づくりで知られるが、今回はどうアプローチしたのだろうか。

「どの作品でも必ずキャラクターの『核』となる部分をつかんでから撮影に入るようにしています。今回の場合、『俊樹は何を望んでいるか』が鍵になるかな、と。たとえば俊樹は、事あるごとに『兄貴は損な役回りや』『妹は俺が育てた』と口にします。そんなこと普通は公言しないので、周りの人たちは“照れ隠しで文句ばっかり言ってるけど、結局は妹の幸せを一番に考えるええやつ”として俊樹を認識しているんですね。もちろん俊樹が妹の幸せを願っているのは事実だけれど、じつは『兄貴は損な役回りや』は偽らざる本心で、本当の望みは『俺を褒めてくれ』なんじゃないか。がんばって妹を育ててきた俺を、だれか褒めてくれよ──。そんな承認欲求こそが彼の『核』だったのが、妹の結婚を機に周囲への感謝へ変わっていく物語だと捉えて俊樹を演じました」

アドリブであるかのような自然な演技

 鈴木や妹役の有村架純、ファーストサマーウイカをはじめ、関西弁ネイティブで固めたキャストによる丁々発止の会話劇が楽しい本作。俊樹とフミ子が住む文化住宅や、近所のお好み焼き屋で、頻繁に展開される掛け合いはあまりにも自然で、台本や演出など存在せず、すべてがアドリブであるかのようだ。

「僕、アドリブって得意じゃないんです。ただ、関西人って何か言われたら返さないと気が済まないじゃないですか。で、返されたらまた何か言わないと負け、みたいなところがあって。前田哲監督もそういうノリが好きでカットの声をかけないので、いつまでも芝居がつづくんです。僕としては、監督が演出する世界に俊樹を呼び込んできたうえで、台本どおりにきちんとやったつもりでした。いや、『きちんと』というのは嘘かな(笑)」

2025.04.22(火)
文=岸良ゆか