国民的アニメ『アンパンマン』の生みの親である漫画家やなせたかしと妻・小松暢をモデルに、中園ミホが脚本を手がける連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合)の幼少期パートが、4月11日に放送された第10回をもって終了した。

 ヒロイン・朝田のぶ役は永瀬ゆずなから今田美桜に、柳井嵩役も木村優来から北村匠海にバトンタッチとなり、視聴者の間では“子役ロス”が広がっている。

第1話から注目度が高かった『あんぱん』

 初回の放送は「正義は逆転する」という嵩の印象的なセリフで始まった。これは、壮絶な戦争を経験したやなせが生前語っていた言葉であり、戦中と戦後で世の中の価値観が大きく変わってしまったことを意味している。

「では、逆転しない正義とは何か?」と考え、「お腹を空かせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげること」という答えを導き出したやなせ。本作は、そんな“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』に、のぶと嵩がたどり着くまでを描いた夫婦の物語だ。

 初回放送がNHKプラスで配信されている全ドラマの中で最多視聴数を記録、作品の舞台となる高知県での総合視聴率(世帯視聴率)が驚異の41.6%を記録するなど、出だしは好調で、視聴者からは「王道の朝ドラでホッとする」という声が漏れ聞こえてくる。

 第1週~第2週では、のぶが生まれた高知県御免与町に東京から嵩が引っ越してくる形で出会った2人が、ともに親をなくす悲しみに直面しながらも、“ヤムおんちゃん”ことパン職人の屋村草吉(阿部サダヲ)が作るあんぱんや、互いの存在に支えられながら成長していく様が描かれた。

 主人公2人の原点となる幼少期の出来事を奇を衒わず、登場人物の心情をじっくり丁寧に見せるストーリー。かつ、2023年度後期放送の『ブギウギ』以来3作ぶりの子役スタートとなったこともあり、朝ドラファンにとってはなじみ深く感じられたのではないだろうか。

ドキンちゃんをイメージしたビジュアル

 一方で、幼少期パートに関しては史実とは異なる部分も多い。実際には戦後に出会っているやなせと暢が幼なじみという設定は、中園が生前にやなせから聞いた「子供の頃はよく女の子と遊んでいた」という話を土台にした完全オリジナルであり、その女の子のイメージがのぶに投影されている。

 また、暢は『アンパンマン』のドキンちゃんのモデルになったとも言われており、オレンジ色の着物や頭のてっぺんで結んだ髪の毛など、のぶのビジュアルがドキンちゃんをイメージしたものになっていることに気づいた人もいるだろう。

「ハチキン(※土佐弁で男勝りな女性のこと)おのぶ」というあだ名の通り、勝気でお転婆なところもドキンちゃんっぽい。そのドキンちゃんといえば、わがままなイメージがあるかもしれないが、意外と優しくて妹思いな一面も持っているキャラクターだ。

 のぶもまた困っている人を放っておけない女の子で、転校早々いじめられる嵩に「おまん、それでも男かえ!」と呆れつつも助けてあげる。そんなのぶの性格を豪快かつ繊細な演技でしっかりと印象付けたのが、現在9歳の子役・永瀬ゆずなだった。

2025.04.26(土)
文=苫とり子