『監察医 朝顔』で見せた大人顔負けの演技力

 2023年9月に改名するまで、「加藤柚凪」として活動していた永瀬のデビュー作は、2019年7月期に放送された『監察医 朝顔』(フジテレビ系)。同作は東日本大震災で母を失った監察医の朝顔(上野樹里)と刑事の父・平(時任三郎)が事件の真相を追い求めるさまをサスペンスフルに描きつつ、その裏にある朝顔たち家族の日常を穏やかに映し出すヒューマンドラマだ。

 視聴率が月9ドラマとしては2年ぶりに全話2桁を達成する大ヒットとなり、2020年11月から第2シリーズが2クール連続で放送されただけではなく、2021年1月、2022年9月、2025年1月にはそれぞれ一夜限りのスペシャルドラマが放送され、いずれも大きな話題となった。

 永瀬は第1シーズンの途中から朝顔と夫の桑原(風間俊介)との間に生まれた長女・つぐみを好演。当初はまだ4歳だったにもかかわらず、巧みな演技で視聴者を驚かせた。特に高く評価されていたのが、そのナチュラルさだ。

 本作でヤムおんちゃんを演じる阿部が主演を務めた『マルモのおきて』(フジテレビ系)で芦田愛菜と鈴木福が迫真の演技を見せ、天才子役として世間を賑わせてから14年。さまざまな子役が注目されてきたが、全体的なレベルは年々上昇しており、大人顔負けの演技力を誇る子役は今や珍しくない。

 その中でも、永瀬が頭一つ抜きん出ていると感じさせる理由は圧倒的なリアリティだ。『監察医 朝顔』の時も演じている感が一切なく、つぐみとしてその場に存在していた。仕草の一つひとつがフィクションだということを忘れるほどに自然。大人びた演技ができる子役はいても、永瀬のように子供らしさを表現できる子役はなかなかいないのではないだろうか。

 特に印象深いシーンがある。第2シーズンで認知症と診断され、『監察医 朝顔 2022スペシャル』では朝顔たちのことも分からなくなってしまった平。だが、つぐみは幼いが故に病気を理解できず、平がいつか優しいおじいちゃんに戻ってくれると信じて疑わなかった。

 そんなある日、何気なく平に抱きついたつぐみだったが、無言で引き離されてしまう。その時、つぐみは心から傷ついた表情をしていて、見ているこちらまで胸が締め付けられた。

2025.04.26(土)
文=苫とり子