加瀬亮との切なすぎる別れのシーン
永瀬は作為的に自分の感情を操るのではなく、その役の置かれた立場や心情をしっかりと理解した上で、自分の心を本気で動かしているのではないだろうか。『あんぱん』でも、多々その節が見られる。
例えば、嵩が父の清(二宮和也)を病気で亡くし、母・登美子(松嶋菜々子)とともに診療所を営む伯父の寛(竹野内豊)を頼って御免与町にきたことをのぶが知る場面。そうとは知らず、嵩にひどいことを言ってしまったのぶは想像する。「どんな気持ちながやろ。大好きなお父ちゃん、おらんなって、もう会えんらあて……」と囁くその声が微妙に震えていて、のぶの感じている激しい後悔や恐怖が伝わってきた。

そんなのぶもまた、大好きな父の結太郎(加瀬亮)を突然失う。しばらくは涙も出ず、憔悴していたが、遠くから汽笛の音が聞こえた瞬間にのぶが走り出すシーンは特に印象的だ。
いつものようにお父さんが出張を終えて、帰ってくるかもしれない。一縷の望みをかけて駅まで結太郎を探しに行くが、見つかるはずもなく途方に暮れるのぶ。その場に居合わせた嵩がのぶに一枚の絵を渡す。そこには、駅で結太郎がのぶに帽子を被せてあげる姿が描かれていた。その絵を見て、結太郎にもう二度と会えないことをのぶは理解するのだ。
感情を溢れさせ、しかし泣き喚くのではなく、父が残してくれた温もりを胸にしっかりと抱きながら静かに涙を流す。そんな永瀬の豊かな感受性が生む演技に2週間、心を動かされっぱなしだった。

もう見れなくなるのは寂しいが、『おちょやん』(2020年度後期放送)の毎田暖乃や、『舞いあがれ!』(2022年度後期放送)の浅田芭路のように、ヒロインの幼少期を演じた子役が終盤に新たな役で再登場するケースもある。
あるいは、『オードリー』(2000年度後期放送)での子役を経て、『スカーレット』(2019年度後期放送)でヒロインを務めた戸田恵梨香のように、ヒロインとして朝ドラに帰ってくる可能性も。本作か、それとも別の作品になるかはわからないが、再び朝ドラで永瀬に会えることを期待したい。

2025.04.26(土)
文=苫とり子