護摩祈祷で撮影した一枚。炎が龍のごとく立ち昇る。

 そんな摩訶不思議も高野山にいれば納得できる。さあ、スペクタクルな仏教の聖地へ出かけよう。


仏教徒でなくても高野山へ行くのには意味がある

 日本に聖地やパワースポットなどと呼ばれる場所はいくつもあるけれど、なかでも高野山は特別だ。

 電車を乗り継ぎ、山肌に張り付くような急斜面をケーブルカーで登って辿り着く先では、ひと呼吸するだけで日常とは違う特別な雰囲気を感じ、「聖地」と呼ばれることに納得させられてしまう。

 そもそも、高野山は空海、つまり弘法大師によって開かれた。遣唐使の留学僧として唐に渡り、言い伝えによれば、空海が明州から投げた密教の法具「三鈷杵」が松の木の枝にかかったのがこの地だったという。

 以来、1200年以上の間、真言密教の聖地として多くの人を惹きつけている。

 特に、ユネスコ世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録されてからは、仏教に興味を持ち、歴史や文化に触れたいという人々もはるばる高野山を目指してやってくる。

 高野山という場所は、仏教徒であろうとなかろうと、国籍がどこであろうと、懐深く人を迎え入れる大らかさがある。関連書を開けば難しい用語や歴史的な背景が出てくるので、ある意味身構えて旅に出るかもしれないが、着いてしまえばその緊張は吹き飛ぶだろう。

 辿り着いた高野山は、今朝まで身を置いていた俗世とはあまりにかけ離れている。

 もちろん仏教や信心に対する敬意は忘れてはならないが、その大らかさに甘えて、高野山の懐に飛び込むという気持ちでいいのかもしれない。

2025.04.28(月)
文=北條芽以
撮影=橋本 篤
協力=和歌山県東京観光センター

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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