壇上伽藍は見どころだらけ 仏教ワンダーランド!

 四天王像が守る中門をくぐれば壇上伽藍に入る。弘法大師が高野山の開創に着手したといわれる場所で、非日常の世界のはじまりだ。

 冒頭の三鈷杵が枝にかかったという「三鈷の松」もここにある。

 朱色が鮮やかな根本大塔に大いに目を奪われるが、まずは高野山の総本堂である金堂を参拝しよう。その名の通り、まばゆいばかりの金の装飾に囲まれ、仏師・高村光雲によるご本尊・薬師如来は厨子の奥深くに秘められている。

 両側には平清盛が自らの血液を使ったと言われることから「血曼荼羅」と呼ばれる曼荼羅(複製。実物は「高野山霊宝館」に収蔵)が掲げられて、その迫力には息をのむ。

 一方、根本大塔では曼荼羅を立体的に表現。ご本尊・胎蔵界の大日如来を中心に堂内全体が曼荼羅となり、宇宙に触れているような気持ちになってくる。

 ほかにも、渋い佇まいにファンの多い西塔や、建物の把手を押してぐるりと一周すればお経を一読したのと同じ徳を得られるという六角経蔵などがあり、時間がいくらあっても足りない。

 壇上伽藍から蛇腹路と呼ばれる小道を抜ければ金剛峯寺に通じる。ここは高野山真言宗3600カ寺、信徒一千万の総本山だ。

 ここでは重要な大法会や儀式が執り行われる。特別な設いの部屋、高野山の風景や四季の花鳥が描かれた襖絵などを美術館感覚で鑑賞できる。

 館内を巡る渡り廊下から外に目を移せば日本最大級の石庭「蟠龍庭」が目に映り、雲海を舞う雌雄の龍を表現した広大な庭園を眺めていると、現世から遠く離れた場所にいるような、そんな不思議な感覚を体験できる。

 そして、目指すは「奥之院」だ。一の橋、中の橋、御廟橋を渡り、弘法大師が入定した「御廟」まで、樹齢700年に及ぶ杉の木々に囲まれた石畳の「奥之院参道」が続く。視線を横に向けると、大小様々な供養塔や墓碑がずらりと並び、もはや俗世ではない、仏の世界に足を踏み入れていることを実感。

 毎朝6時と10時30分には、今なお人々の平和と幸福を祈りつづけている弘法大師に食事を届ける儀式「生身供」が行われ、御膳を入れた籠を担いだ僧侶が御廟に向かう。1200年毎日続けられる厳かな儀式を静かに見守りたい。さらに、“高野七不思議”と呼ばれるスポットも。

 持ち上げると善人には軽く、悪人には重く感じるという「弥勒石」や、中を覗いて自分自身が見えないと3年以内に亡くなるという「姿見の井戸」などもある。

 高野山では、どの場所でも弘法大師の存在を近くに感じられる。尊敬の念はもちろん、“お大師さま”と親しみを込めて呼ばれており、深い山に囲まれたこの場所にいるだけでその教えを授かったような気持ちになれるのだ。

2025.04.28(月)
文=北條芽以
撮影=橋本 篤
協力=和歌山県東京観光センター

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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