有明海に面する柳川の、記憶に残る旬の味

 戦後、伯爵家が解体され、多くの華族が地元の土地を手放し、東京の土地を残しました。しかし立花家は、この柳川の土地と屋敷を守り続けるために、料亭旅館を開きました。それが現在の「御花」の始まりです。当初「殿様が商売なんて」と周囲の人に懐疑的な視線を向けられましたが、次第にその覚悟と本物の味に魅せられて、多くの人が訪れるようになりました。夕食では、そんな料亭旅館ならではの本物の味を楽しめます。

 春の会席の前菜では、桜の蕾と旬の素材が春の訪れを知らせてくれるよう。この土地の春の味覚「わけ」(イソギンチャク)のからあげはコリコリとした歯応えがあり、記憶に深く残る味わいです。

 立花家の農園で育てられている「タロッコオレンジ」の風味をソースとして生かしたメイン料理。博多和牛や野鴨の旨みが口の中に広がったかと思うと、オレンジのソースが爽やかにその後を追いかけ、口の中を通り過ぎていきます。

 柳川名物「うなぎのミニせいろ蒸しと肝吸い」。

 せいろ蒸しは江戸時代に誕生した郷土料理です。ご飯の上にうなぎの蒲焼と錦糸卵を乗せ、せいろで蒸しあげています。うなぎの骨の出汁を使った秘伝のタレを絡め、ふくよかなうなぎの旨みと、ほんのりとひろがる甘味が御花らしさ。御花のせいろ蒸しが好きだと根強いファンがいるのも納得の味わいです。

 舟に乗って水路を下り、柳川の景色を楽しみながら朝食を食べることも可能。朝日が差し込むなか、ゆらりゆらりと両岸の風景を楽しみながら、有明海の海苔や自家製明太子など季節の朝食を味わえば、忘れられない旅となることでしょう。

 御花の代表、立花家18代の立花千月香さんのモットーは「文化財を遊び倒す」。

「この文化を未来に残したいのです。保存するだけではなく、今を生きる人に活用してもらい、楽しんでもらうことが大切だと感じています。広間で寝転んだっていいんです。思う存分くつろいで、遊んでほしいんです」

 敷地内では、訪れた人々が我が家で過ごすように、ゆったりと楽しそうに過ごす姿がありました。

 柳川と立花家が紡いできた、歴史に入り込む時間。庭や建物を眺め、水の音や鳥の声、船頭の歌に耳を傾ける、香りをかぐ。そこで出会うのは、かつてここで暮らした藩主、あるいは伯爵が過ごした、とある一日です。

 働く人も、訪れる人も、うれしそうで楽しそう。そんな喜びあふれるお宿です。

御花

所在地 福岡県柳川市新外町1
フリーダイヤル 0120-336-092

・スタンダードルーム:38,700円〜
・特別室「黒松」:83,200円〜
▼「お舟で朝食」付き料金
・スタンダードルーム:50,700円〜
・特別室「黒松」:95,200円~

※いずれも1室2名利用時の1名料金(2食付き、税・サ・宿泊税込み)です。

https://ohana.co.jp/

2025.04.26(土)
文=神谷加奈子
写真=榎本麻美