名勝に溶け込むように佇む、快適さを備える宿泊棟

今回のリニューアルで大きな変化を遂げたのは、40年前に建設した宿泊棟です。伝統や歴史を味わいながら、快適に過ごせるように設えました。建物にも使われている黒漆喰の壁を施し、九州の八女提灯、佐賀のレグナテックの家具など、地元の名産で彩られています。屋敷で使われていた礎石を石畳などとして使用し、立花家の家紋が彫られた瓦などをオブジェとして飾り、伝統を感じる空間を創出しています。

ロビー奥には、ブックラウンジ「御花書紡」と、ドリンクなどが楽しめるラウンジが隣接しています。古くから愛されてきた柳川牛乳や、ビネガーサイダー、地酒など、柳川ならではの飲み物を提供し、北原白秋など柳川にゆかりのある人物の本などを読むという豊かな時間を楽しめます。

客室は全20室、日本庭園「松濤園」側のお部屋の窓には、国の名勝の庭園と建物が広がります。
特別室「黒松」は、御花を象徴する樹木の名が付けられ、黒漆喰の壁と、まるで殿の寝床を再現したかのような格式高いお部屋。まるで、城主のような気分で過ごすことができます。

御花では、毎年5月に東庭園で芍薬(シャクヤク)が美しい花を咲かせます。昔から御花の客室名としても親しまれた「芍薬」からは、屋根瓦などを上から間近に眺めることができるのです。瓦に刻まれた立花家の家紋を探すなど、優雅な楽しみがあります。

今回宿泊した「蜜柑」は、家族友人らとプライベート空間が保たれるツーベッドルームのお部屋。立花家は明治時代に農業で地域振興を目指そうと農事試験場を作り、蜜柑など柑橘類を育ててきたことから名付けられました。小上がりの座敷からは、先に遮るもののない風景が広がります。

それぞれに物語がある御花の部屋。有田焼の茶器で地元のお茶を入れ、美しい名勝を上から眺める贅沢な時間を過ごすのです。

また、各部屋には香り豊かなヒバの木でできた湯船のあるバスルームがあります。湯船から庭園を望み、旅の疲れをしっかりと癒すことのできる贅沢な空間です。
2025.04.26(土)
文=神谷加奈子
写真=榎本麻美