不老長寿伝説が残る岐阜県養老の地に佇む、江戸時代中期創業の老舗「千歳楼」。ここは大正天皇を始め、三条実美、高松宮など皇族関係者や、竹内栖鳳、山岡鉄舟、伊藤博文、横山大観、北原白秋、谷崎潤一郎など、数多くの文化人が訪れた宿です。

 明治、大正、昭和と建設時期の異なる三棟の建物はいずれも国の登録有形文化財に登録。歴史を感じる重厚な雰囲気と、来訪者による貴重な芸術作品に囲まれながら過ごす極上の滞在は心を解き放つ至福の時間。


明治、大正、昭和の建築様式と来訪者の書幅を味わう

 「千歳楼」は1764年創業、260年以上の歴史を誇る江戸中期創業の老舗文化財宿。元正天皇が養老の地を訪れてから1千年経ったころに創業したことから「千歳楼」と名付けられたといいます。

 明治13年に養老公園が造成されると、滝から500メートルの景観の優れた現在の場所に改築されました。総檜造りの「本館」(明治期)、頑丈な地盤の山肌に沿う懸造りの「栖鳳閣」(大正期)、「流芳閣」(昭和期)の異なる時代に建てられた三棟が2014年に有形文化財に登録されています。

 歴史を感じさせる建物の中へ入ると、和みの空間が広がります。ロビーは一面ガラス張りで竹林を思わせるような竹の節のデザインが施されています。ゆったりと四季折々の季節の彩りを楽しむのもおすすめです。

 本館2階には、東海平野を一望できる大広間が。天気の良い日には名古屋駅前のJRタワーズまで眺望が広がるそう。

 部屋を囲む建具のガラスは明治期の手作りガラス。手作りがゆえの気泡やむらが趣き深く、美しい庭をさらに幻想的に彩ります。明治の皇族有栖川宮熾仁親王の筆などが掲げられたこの広間で、時代を感じながら宴を楽しむのもいい。

 廊下には勝海舟、高橋泥舟とともに「幕末の三舟」と称される幕末の剣豪・山岡鉄舟の書が。戊辰戦争で勝海舟の使者として西郷隆盛を説き、江戸城の無血開城を導いた人物です。

 この宿には大正天皇を始めとする皇族関係者や、竹内栖鳳、横山大観、伊藤博文、北原白秋、谷崎潤一郎など数多くの歴史上の人物が訪れました。近年、宿泊者のつながりから大塩平八郎が訪れたことも明らかになったそう。

2025.01.18(土)
文・撮影=神谷加奈子