大正天皇が休憩した部屋や、竹内栖鳳の意匠が残る部屋

 千歳楼の部屋には、一部屋一部屋に「いわれ」があり、「竹」「楓」などそれぞれのテーマに沿った意匠が凝らされています。

 「松の間」は、大正天皇のために設えた部屋。大正天皇はここで休息し、本館の大広間で食事をしたそう。

 「松の間」の名にふさわしく部屋の隅々まで「松」をテーマにした意匠でまとめられています。松の葉の意匠の欄干に、釘隠しには木彫りの松ぼっくり。襖の手掛けや市松模様の扉に至るまで、当時の職人のこだわりを感じさせます。

 「袖の間」は、日本画の巨匠・竹内栖鳳がデザインした部屋。栖鳳は「物を描けばその匂いまで描く」といわれた近代日本画家です。高さ3メートルの折り上げ天井と一面のガラス張りの縁側は開放感があり、外光が射しこむ明るい室内で、生き生きとした栖鳳の芸術とともに過ごすことができます。

 栖鳳は、若い頃から何度も訪れては、絵を描いたり、陶芸を楽しんだりと芸術活動を楽しんでいたそう。

 窓の外には想像力を掻き立てる美しい景色が広がり、栖鳳が度々訪れていた理由がわかるような気がします。

 部屋には浴室を新設しています。檜の香りが心地よく、移ろいゆく外の景色を眺めながら楽しんで。

 各部屋の浴室のほか、本館の浴場で薬草風呂を楽しむこともできます。

 千歳楼の原点でもありながら、長い歴史の中でいつしか途絶えてしまったこの薬草風呂。何とかその失われた歴史を再現しようと、クラウドファンディングを実施し、2021年に復活を果たしました。

 日本三大銘水の一つの養老の水と伊吹山で栽培された薬草をブレンドした薬草風呂は新たな千歳楼の名物として人気を博しています。黄土色に輝く滑らかな感触の湯にじっくり浸ると身体が喜ぶよう。

2025.01.18(土)
文・撮影=神谷加奈子