特に、オール讀物新人賞を受賞した第五章目「盟信が大切(かみかけてしんがたいせつ)」はとびきりの面白さだ。お岩さんの大当りにもかかわらず太宰府へと旅立った菊五郎不在の芝居町。歌舞伎の粋をかけらも知ろうとしない業突く張りの金主今助とそれに迎合する座元VS芝居小屋の仲間たちの、意地を賭けた「闘い」が臨場感たっぷりに描かれる。南北の書いた「盟三五大切」は忠臣蔵の外伝であり四谷怪談の後日談でもあるのだが、これを上演することで今助が出した条件、勝っても地獄負けても地獄のその賭けを南北軍団がどう闘うか。これがまぁ、気持ちいいったらありゃしない。おもわずページに向かって「ざまあみろってんだっ!」と悪態をついてしまった。
そう、読んでいるうちに自分も芝居町の住人になった気がしてくる、この巻き込まれ感の心地よさが最大の魅力に違いねぇ。みなさん、どうかお近くの本屋で『かぶきもん』を手に取っておくんなせぇ。とざいとぉーざいぃー。
まず今日はこれぎりで。
◆本の紹介
『かぶきもん』(米原 信)
時は文化文政。江戸の芝居は華盛り。
今をときめく色男・菊五郎に芝居の現人神・團十郎が揃い咲けば、たちまちそこはこの世の極楽。
天才狂言作者・鶴屋南北の筆は次々傑作を生みだすも、金が敵の世の中で、ケチな金主とあの手この手の化かし合い!
すかっと笑える歌舞伎ものがたり、始まり、はじまり~。
◆プロフィール
久田かおり(ひさだ・かおり)
精文館書店中島新町店勤務。「本屋が選ぶ時代小説大賞」選考委員、「WEB本の雑誌」や文芸書評、文庫解説などで活躍。著書に『迷う門には福来る』。


かぶきもん
定価 1,870円(税込)
文藝春秋
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2025.03.15(土)
文=久田かおり