だが、はじめの勤務態度とは関係なく喫煙者には生きにくい時代である。
以前は雀荘に置いていた自販機だけでもそこそこの売り上げがあったのだが、そこを利用している大学生達は近頃とんとお上品になったと見えて、収入は明らかに減っていた。カートン買いをしていく常連客など、もはや絶滅危惧種と言ってもよい。
はじめは換気扇に向かってゆるく紫煙を吐き出した。
空気はじっとりと蒸し暑く、残照はどこか焦げ臭い。
カネイは、店舗と住居が一体となっている。
二階はもっぱら物置と万年床で、一階の店舗裏には便所と風呂場、そして台所が続いていた。
空腹を覚えて台所までやって来たのだが、冷蔵庫は空であった。口寂しくて思わず煙草を咥えるも、換気口を透かして瞬くように差し込む夕日を見ていると、腹具合はますます切なくなってくる。
外食するかとも考えたが、街中で喫煙が許されたスペースはどんどん狭くなっているので、この辺りでのんびりしようと思ったら自宅が一番となってしまう。愛煙家にとって、この国はなんと居心地が悪くなってしまったことか。
いっそ海外に行ってみようかと思いつき、先日から持ちかけられている儲け話が頭を過ぎった。
山を相続するだけでどうしてこんな手続きまで必要なのか、不思議に思うような大量の書類にサインし、正式にはじめが山の名義人兼管理人になった翌日のことである。
――あの山を売ってくれませんか。
そう言って、胡散臭い笑顔のビジネスマンがはじめのもとを訪ねて来た。
私有地の「山」というと、大きな山の一角といった形が多いらしいが、はじめが相続したのは、本当に山そのものとも言える土地一帯であった。地図で見るとその山はきれいなお椀型をしており、ちょうど他の山に接している裾野をぐるりとめぐる円の内部が、丸々はじめのものとなっていた。
周辺住民からは、「荒山」と呼ばれているらしい。
最初にやって来た男は大きな企業の名前を出し、その荒山を買い取ってレジャー施設を作りたいのだと語った。
2025.03.14(金)