我々じゃない、と天狗面は繰り返す。
袈裟の男は足を止め、やや眉を顰めて言葉を返した。
「すぐにこちらの者を向かわせます。以後はそちらに」
「――了解した」
「では後ほど」
そう言ってから、はじめの背中に手を当てるようにして歩くよう促す。振り返ると、袈裟の男の肩越しに、天狗面が苛立たしげに頭を搔き毟るのが見えた。
「あいつとちゃんと話さなくてよかったのか?」
「たいした問題ではありません。どうぞご心配なく」
その言い方はいかにもそっけない。
「あんな所に閉じ込められて、さぞかしお疲れでしょう。ゆっくりお休み頂ける場所へご案内いたします」
トロッコとは反対側の門に向かって歩きながらそう言われたが、はじめからすると休むどころの話ではない。
「何が起こっているのか、さっぱりなんだけど……。ここは何で、あんたらは一体、何者なんだ?」
とにかく説明が欲しいと言うと、「ごもっともです」と重々しく頷かれる。
「しかし、安原さんに納得して頂けるのに十分な言葉をわたくしは持ちません。百聞は一見にしかずとも申します。実際に見て頂いたほうが早いかと」
ちょうど門を出る位置に差し掛かり、芝居がかった仕草で男は外へと手を向けた。
「どうぞ、ご覧下さい」
開けた視界の向こう、真っ先にはじめの目に飛び込んできたものは、そこにあると想像していたような、静かな夜の湖畔などではなかった。
はじめの足元には切り出された石で出来たスロープがあり、その先は観光地の展望台にも似た広場となっている。そこを行き交っていたのは、はじめが今までに見たことも聞いたこともないような巨大な生物であった。
絶滅したというジャイアントモアが生きていたならば、こんな感じだったのだろうか。
牛や馬ほどの大きさの黒い鳥が、何羽も荷車に繫がれている。しかも、普通の鳥よりも足の数は一本多い。黒々とした爪をガチガチと鳴らしながら、三本足を器用に動かして彼らは歩いているのだ。
2025.03.14(金)