わめく男を不審そうに見ていた彼らは、はじめに気付くやいなや一様に青くなり、まるで化け物でも見るような目をこちらに向けてきたのだ。はじめに気付いた者から、みんな同じように顔色が変わっていくのがちょっと愉快ではあったのだが、その実、全く違うベクトルではじめも動揺していた。
――何だ、ここ?
一万歩譲って、アウトローな奴らが勝手に掘った鉱山が存在していたとしよう。だが、それにしてはあまりに雰囲気がおかしくはないか。
「お前、どうしてそんな所にいる!」
ここに来て初めて、はっきりと聞き取れる日本語で話しかけられた。
見れば、トロッコの横に鳥っぽい黒いお面を被った小柄な男が立っており、わなわなと震えながらこちらを指さしていた。
「なんか、ここに入っていろと言われて」
「だ、誰に」
「知らない。幽霊って名乗っていたけど、あんたらのお仲間じゃないの」
言われた方はしばし絶句していたが、我に返ると「大天狗を呼んで来い」と叫んだ。その背後に立っていた、同じようにお面を被っていた男が泡をくったようにトロッコの機関部へと駆け戻って行く。
「あんた、人間だよな……?」
お面の男におそるおそる尋ねられ、「人間以外に見えます?」と返す。
人間だよな、そうだよな、と呟いて男は頭を抱える。
「ええー? どうしたらいいんだ、これ……」
「いや、俺に言われましても」
「あんた、いつからそこに入っていた?」
「ついさっき」
「ついさっき!」
お面男は絶望したように繰り返す。
「ちょっと待て。あんた、一体何者なんだ」
「しがないタバコ屋です。名前なら、安原はじめと申しますけど」
剣幕に押されるようにして名乗った瞬間、お面の男のまとう雰囲気が変わった。
鋭く息を呑み、まじまじとはじめを見つめ直す。
ややあって「なるほど」と呟いた時には、先ほどの狼狽ぶりが噓のように落ち着いていた。
「これは、大変失礼をいたしました」
露骨に慇懃な態度になり、「どうぞこちらへ」と木箱から出るように促される。
2025.03.14(金)