何も見えないうちに、はじめの乗ったトロッコはガタゴトと動き出した。
おそらくは、先ほど見えた洞穴に入ったのだろう。途中で耳をふさがれるような感覚がし、直接風が当たるわけではないのに、すうっと温度が下がっていくのを感じる。レールの継ぎ目を走るリズムもすぐに軽快なものへと変わり、どんどん速度を増しているようである。
口寂しくて煙草が吸いたくなったが、下手すれば火傷するか、酸欠にでもなりそうだと思えばあえて挑戦する気にもなれない。
一体、自分はどこに向かっているのやら。
こんなトロッコがあるくらいなのだから、やはり鉱山かそれに類する何かではあるのだろうが、資料上、こんなものがあったなど一切聞いていない。父の黒い人脈が関係した資金源、隠し財産だったと考えるのが一番妥当なのかもしれないが、鉱山などという大掛かりなものが果たして普通に隠し通せるものなのだろうか。
――いや、でもまあ、あのジジイの持ち物だからな。
全部それで納得出来てしまうのが恐ろしいところではある。
つらつらと考えている間も、絶え間なく細かい振動が体に伝わってくる。
よく整備されているのか、トロッコは滑らかに動いているようだ。荷物に囲まれているせいでほとんど外は見えないが、時折、高速のトンネルのようなほのかな明かりが、対面の隙間から差し込んでいる。
眠れるわけがないと思っていたが、一定の音と光は眠気を誘う。
あくびをかみ殺し、いつの間にかうとうとしていたらしい。
夢の狭間をたゆたっていたはじめを叩き起こしたのは、トロッコのブレーキと思しき耳障りな金属音と、大きな揺れであった。
寝ぼけ眼を瞬いていると、いつの間にか外が騒がしくなっている。
はっきりと大声で言葉を交わしているのに、なんと言っているのかすぐには理解出来なかった。
あれ? これ、日本語だよな?
どこかで聞いた覚えがあるようなないような、と首を捻っていると、唐突に暗闇の中に光が射した。目がくらみ、思わずぎゅっと目をつぶる。
2025.03.14(金)