「あいよ」

 連れて行かれたロッジの中に入ると、何か、ハーブのような良い香りがした。トイレにもドライフラワーが飾られており、カネイの古いトイレに慣れた身にはそれだけでなんともしゃれて見える。

 トイレから帰る際、居間と思しき部屋を覗いてみたが、そこには大きなアクアリウムがあり、天井ではファンが回っていた。モデルルームのように綺麗な部屋だが、使いかけのお茶のセットや小物があるあたりに、拭いきれない生活感がある。

 誰かが住んでいるのは確かなのに、人気が全く感じられないのが少し不気味であった。

 見咎められないうちに戻ると、玄関のすぐ外で彼女が待っていた。

「はじめさんには大変申し訳ないのですが、これから、少し窮屈な思いをして頂くことになります」

 おや、とはじめは目を瞬く。

「ここが目的地じゃなかったのか?」

「もうちょっとだけ、お付き合い頂きたいのです」

 可愛らしく両手を合わせてウィンクしてから、トラックの荷台を開く。

「はじめさん、閉所や暗所は平気ですよね」

「平気、では、ありますけど……?」

 まさか。

 ロッジの玄関に点された薄明かりの中、荷台に山と積まれた木箱を指し示してにこやかに言う。

「これに入って下さい」

「マジか」

 大きな木箱の中を覗き込めば、申し訳程度の小さな座布団と、飲料水が入っているらしいガラス瓶が見えた。

「マジかー……」

「大マジです」

 語彙を失ったはじめに対し、さあ入れ、と笑顔でプレッシャーをかけてくる。

「あ、そう言えば携帯電話はお持ちですか」

「そもそも持っていないけど、なんで?」

「ここから先は圏外ですし、十中八九壊れてしまいますから。お持ちならお預かりしようかと」

 はじめは今度こそ絶句した。

「俺、どこに連れて行かれようとしてんの? まさか、このまま湖に沈められたりしねえよな」

「大丈夫、大丈夫。あなたに何かあれば、困るのは我々なのです。どうかご安心下さい」

 どこにも安心出来る要素がねえぞと思いつつも、結局は彼女に促されるがまま、はじめは木箱の中で膝を抱えることになった。

2025.03.14(金)