お互い無言のまま運転を続けるうちに、段々と道が曲がりくねり始めた。九十九折を曲がるたびに、道があからさまに狭くなっていく。
自分達と後方のトラックのライトしか光がない道を進んでしばらくして、左右に迫り来るような森林の闇が途切れた。
やっとひらけたと思った先は、皓々とした月の光に照らし出される大きな湖であった。
がたがたと揺れるトラックに、とうとう舗装もされていない道に入ったと知る。
「すっげえ田舎」
「まあ、山ですからね」
湖に沿ってトラックを走らせ、ようやく、湖に臨むロッジへとたどり着いた。
いつの間にか二台に増えていたトラックを先導する形で進み、ロッジの前でゆっくりと停車する。
だが、後続の二台のトラックはまだ動いているようだ。停車することなくハンドルを切り返し、ロッジのすぐ隣の建物にバックして向かっている。カッターボートでも入っているのだろうか。かなり大きなガレージである。
「……着いた?」
「はい。一旦降りましょう」
トラックを降りると、東京と明らかに空気が違う。
驚くほど気温が低い。山特有の鋭いひやっこさである。深呼吸すれば、随分と久しぶりに肺の奥まで澄んだ空気がしみわたり、つきんと痛むような感じさえした。
「あれがあなたの山です」
幽霊に指差された先に目をやれば、月光によって照らし出された山の形がはっきりと確認出来た。
山と接している湖の対岸には、人家の明かりらしきものも見える。
集落でもあるのだろうかと思っていると、バタン、と扉を開閉する音と話し声が響いた。
振り返ると、ガレージ前につけた二台のトラックの運転手達が何やら動き回っている。荷台から荷物を下ろそうとしているようだが、その間、かたくなにこちらを見ようとしていないような、あえてこちらを無視しているような印象を受けた。
他のトラックを見ているはじめに気付いたのか、彼女は違う方向へ手を向けた。
「お手洗いにご案内します。今なら、誰もいないはずですので」
2025.03.14(金)