体制に順応するために生まれてきたのか!

12月14日には、市民団体の依頼を受けて、私も屋外ステージに立つことになりました。まず決めたのは「オオカミが現れた」を歌うこと。この曲は、国家的な式典で歌う予定だったのが「大統領が出席する場にふさわしくない」と急遽降板させられ、私が国相手に裁判を起こすことになった――という背景を持つ楽曲です。
私が民衆歌手と呼ばれるきっかけとなった曲なので、絶対に歌おうと思いました。依頼を受けたのは本番の3日前でしたが、6つの女性活動家団体などで構成した即席合唱団をつくり、恐るべき団結力で準備を進め、30人の女性たちとステージに立ちました。合唱にこだわったのは、フェミニストがネット上だけでなく、生身の人間としてここにいることを証明したかったからです。

1月6日には大統領の逮捕を求め、オールナイト集会が開かれました。雪の中、みんな銀色のサバイバルシートを被って座り込みをしたので、その姿がキスチョコに似ていて「キセス団」と呼ばれていましたね。
朝を待つ間、市民たちが代わる代わるスピーチをしました。その中で若い女性、たぶん学生さんがステージに立って、「そこの警察の人たちに一言言いたい。抵抗しろよ! 体制に順応するために生まれてきたのか!」と絶叫したんです。
震えました。私はいま、各地のデモで行われた市民発言時間の言葉を、感激しながら記録しています。車いすの男性の言葉、水商売をしている女性の言葉。社会に無視されていたけど、ずっとそこにいた人たちの声を。
今回のデモで、異なる生活をしている人たちが一つの意見のもとに集まり、互いの声に耳を傾ける時間がつくられた。そしてこの国を繫ぐ連帯が可視化された。社会が変わる時が来たと感じています。
いや、変わるまでデモし続けるだけなんですけどね。
イ・ラン
1986年ソウル特別市生まれ。2012年歌手デビュー。アルバム『オオカミが現れた』で、ソウル歌謡大賞の今年の発見賞、韓国大衆音楽賞の最優秀フォークアルバム賞などを獲得。映像作家としても活躍し、韓国と日本でエッセイや小説も多数発表する多才なマルチアーティスト。
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2025.03.08(土)
文=CREA編集部
写真=岡本佳樹
コーディネート=ソン・シネ(TANO INTERNATIONAL)
CREA 2025年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。